携帯端末の震えで目が覚め、かすれる目で周りを確認する。
雑魚寝の人間はほとんどいなくなっていた。
携帯端末に表示された文字を見る限り、問題なく間に合う時間に起きたのだが、やはり瞼は重い。
時間だけ確認しつつ、何度か瞼を閉じるが、そんなことをしたところで時間は増えない。俺は嫌々ながら身体を起こした。
不意に、珍しい気配を真横、しかもごく近くにとらえて、ゆっくりと斜め下を見る。もうすでに外に出てしまった人も多いため、何処でも寝放題だろうに、そこにはよく見知った人物がいた。
眉間に皺を寄せて、やたらと色気のない雰囲気の悩ましい姿に見える男をみていると、俺も次第に眉間に皺が集まる。
寝ている布団も違えば、少なくなったとはいえ他の人間も寝ている。背も向けているし、同衾とは程遠いと思うが、いる場所が近すぎて同衾してしまった気分だ。
朝というより、もう昼に近いくらいなのだが、朝から大変残念な気分になってしまった。
「なんでや……」
ぼんやり眉間の皺がかわいそうだなと思っている場合ではない。
「……、こたえるか」
俺の一言で起きたのか、隣にいた男が声をかけてきた。
「なんの答えや」
「となりに、ねている、こたえ」
少し片言で、ゆっくりと話しているのは、きっとまだ目が覚めていないからだろう。
「教えてくれるん?」
「せなか、とって、ばかにしたい」
「……バカにしたいって、俺?」
しばらく答えは返ってこなかった。
「ねむい」
「え。一方的に終わりかい。むしろ、今、バカにされた?」
かけ布の中に潜っていく男の代わりに、目が覚めた俺は、布団から抜け出し、使っていた布団を片付けはじめる。
「ええんやけど、ひぃも、俺と同じ時間からの仕事やない?」
かけ布を巻き込んで睡眠を楽しもうとしている男、一織に声をかけると、やはり眠そうに答えてくれた。
「そうかもしれない」
「あ、そうなんや」
真面目に起こす気がない俺は、寝言のような答えに頷いて、布団を抱えて、布団が積み上げられている場所に運んだ。
運び終わると、再び携帯端末で時間を確認し、先ほどまで俺もいた場所にある白い塊に声をかけた。
「あと、三十分ほどで予定時刻やさかい、ちゃんと起き……」
「さんじゅっぷん?」
言い終わる前に、一織が布団を跳ね上げ身を起こしていた。
自分自身の携帯端末を見て、声をかけた俺を見た後、寝ていたときより悩ましい顔をした。
「……ちゃんとおこせ」
「なんや、もしかして起こして欲しくて近くにおったん?」
「そうだが」
至って真面目な顔をしてそんなことを言うものだから、まだ寝ぼけているんだなと俺は理解した。
「ああ、せやったら、これで起きてよかったやんな」
「そうだな」
「うん、まぁ、なんちゅうか。おはようさん」
「そうだな」
もしかしたら、まだ起きていないのかもしれない。
俺が確認するように手を振ると、振り返してくれた。
起きていないのだろう。
もう一度携帯端末を確認したあと、俺はそのまま一織に背を向け天幕から出ることにした。
あまりのんびりしていて間に合わなくなるのが嫌だったからだ。
俺がまた団長に会いに団長の天幕に行って少しすると、一織が何もなかったような顔で入ってきたので、少し笑ってしまった。
「何か、愉快なことでもあったか?」
俺が急に笑ったものだから、団長が不思議そうに首を傾げる。
「そうですね、完璧そうな人でも朝は弱いんやなぁと」
「……かわいらしいだろ?」
なんとも可愛らしくないことを言われたので、軽く首を横に振る。
「ふてぶてしいわ」
団長が俺に代わって笑った。
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