俺の呟きはくぐもって随分聞き取りにくかっただろう。
「ほー……って、ご本人どっち」
しかし、良平はきちんと俺の声を聞き取ったようだ。良平は適当に相槌を打ってから、疑問をぶつけてくる。直前まで暗殺者と副会長の話をしていたせいだろう。ご本人が誰であるかわからなかったらしい。
「怖いほう」
俺からすれば怖いのは暗殺者だ。しかし、エスゴロクのときの副会長にはゾッとするものがあった。それを思えば少し紛らわしい言い方だったかもしれない。
だが、そこは相方である。
「どうやって」
副会長ならば問題なく、爽やかな笑顔を浮かべて俺に直接いってくるはずだ。そうなると、暗殺者や反則狙撃の噂などふっとんで、俺は違う噂で悩まされるだろう。しかし、そうはなっていなかった。
「あれや、チーム組みませんかの募集掲示板」
「あー……名指しでもされたか」
「名指しっちゅうか……けど、できたら断りたいんやけどなぁ……」
余計にグダグダし始めた俺が面白いのだろう。良平が頭をつついてくるのを俺は手で追い払った。
「お前、まだ一人も集まってねーんだろ? 受ければいーじゃねーか」
そう、薄情な相方のせいで俺はチーム一人である。寂しい限りだ。だが、相方や友人を相手にぎゃふんといいたくない俺は、できたら強力なチームメンバーが欲しかった。
強力という分では暗殺者は問題ない。頭も回るほうだと思う。コンビを組んでいることから、チーム戦も無難にこなしてくれそうだ。
しかし、掲示板の書き込み方が問題だ。
「『求愛の君へ、心臓を射抜かれた者より』っちゅうのはなんの冗談やと思う?」
それが俺の掲示板に書き込んだチームメンバー募集の記事に書き込まれたものだ。記事を立てた人間にしか見えないようにし、さらに鍵つきで、しかも匿名で投稿されていた。
俺しか内容をしらないため、反則狙撃の正体より話題にならなかったのだ。
反則狙撃である俺が立てた記事は、メンバーではなくその正体について尋ねる書き込みが少しあるばかりで、暗殺者の申し出は貴重である。しかし、どうにも選びたくないのだ。書き込みがちょっと嫌がらせである気がしてならない。
「やべー。面白いから受けろよ」
「ほんなら、良平やったら受けたんかい」
「他人事だから言ってるに決まってんじゃねーか」
「さよか……」
俺は頬を机につけ、横を向くと、携帯端末を取り出す。
エスゴロクのせいで、メンバー募集としてはあまり賑わいを見せないため何か書き込みされたら通知が来るようにしていた。副会長が反則狙撃かもしれないと思われているため、皆声がかけにくいのである。思わぬ弊害だ。
その賑わいを見せない掲示板を眺め、鍵つき匿名コメントをもう一度開こうとしたとき、携帯端末が鳴動した。
何か他の連絡なのかもしれない。しかし、俺はなんとなく書き込みのような気がして、更新ボタンを押す。
更新されたページには新しい書き込みがされていた。
これも、鍵つき匿名コメントだ。
「催促やったらいややなぁ……」
「そこまで執着されるほどいいもんか?」
「それをお前さんがいうてもなぁ」
ちゃっかり相方をしている良平が、反則狙撃のよさを否定してもあまり信用はない。なにせ、なんだかんだコンビを組んで三年目なのだ。
「まぁ、そうかもな。で、見ねーの?」
「見るけど」
俺はそのまま携帯端末を操作する。
その匿名記事にはこう書かれてあったのだ。
「『まだ決まっていないようなら、うちのチームに入らないか? 中衛を募集しているんだ』……これ、意思疎通できてねーの。相方なのに」
良平が内容を小さく読み上げる。
コメントの最後には舞師と名前があった。