◇◆◇



 舞師と暗殺者は俺が高等部に入ってすぐ、有名になったコンビだ。
 変装後の二人は金髪と銀髪でめでたい色の派手な美形であったし、何より戦闘力が当時の高等部一年生の中では群を抜いていた。
 当時の高等部一年……現在の高等部二年生は、不作の二年といわれ、現在の一年の才能に負け三年の鬼才さに負ける、才能の穴であるとされている。事実、名前もちといわれる有名人は三年生より少ないし、一年生ほどの才能の輝きというやつがない。
 その不作の二年生の中でも近々は、コンビ両方が名前もちの有名人で、近距離と超近距離という珍しい近距離型のコンビだ。コンビはだいたい遠距離から中距離型と近距離型の戦闘スタイルを持つ二人で組むものである。お互いが得手としない距離を補うためだ。
 二人して同じ距離で攻撃するコンビがいないわけではないが、なにかと競争させ、才能を磨かせるこの学園では成績を争うことになるような二人ではコンビを組みにくい。そうでなくてもコンビ戦闘の成績がふるわないといっては、コンビが解散することもある。
 そういったことから近距離が二人という珍しいコンビである近々は、よほど仲が良いのか、気が合ったからコンビを組んだと俺は思っていたのだ。
「私はてっきり、破砕が申請するチームに貴方も入ってるもんだと思ってました。猟奇がいましたし」
 だから、待ち合わせ場所で顔を合わせ、開口一番にいわれたことばに、まずいと思った。
 暗殺者のことには触れず、開口一番がそれであったものだから、もしかしたら舞師のチームに暗殺者がいるのではと思ってしまったからだ。俺がちょっとばかり暗殺者に返信を戸惑い、放置したから、別方向からお誘いをかけられたのかもしれない。
「俺もそうしたかった」
 苦笑して答えながら、俺は暗殺者が同じチームなのではないかとそわそわしていた。放置してしまっているだけに、非常に気まずい。
 しかし、それは違った。
「でも、一度ちゃんと会いたいと思ってましたんで、いい機会になりました」
「そうか……ところで一つ聞きたいんだが、暗殺者は同じチームなのか」
「いいえ」
 まさかの否定である。
 新入生歓迎会は、高等部二年生にとって学年を上がってから一番最初の大きなイベントごとだ。しかも活躍次第では単位や補習、課題が貰える。できるだけ活躍しておきたいイベントだった。
 それゆえ、強いやつや、気心が知れていて連携を組みやすいやつとチームを組みたい。俺のように友人の妙なやる気に阻まれていなければ、普段から一緒にコンビを組んでいるやつはチームに入れるだろう。
 仲が良くて強い相方なら尚更である。
 だから俺は、暗殺者と舞師の仲を少し疑ってしまった。
「……失礼を承知で聞くが、暗殺者とは仲が悪いのか?」
「まさか! 彼とコンビを組んだことはここに来て一番良かったことだと思ってますよ」
 実に爽やかな回答だ。まるで副会長のような爽やかさである。反則狙撃よりむしろ、舞師のほうが副会長だと疑われてもいいくらいだ。
 しかし残念ながら、舞師が副会長だということはないだろう。
 エスゴロクでの副会長は身体能力の高さも感じられたが、それと同じくらい計画性もあった。
 舞師はこうして話していると賢そうである。そこに爽やかさも付け足せば、普段の副会長に近づく。しかし、舞師は一度剣を持つと本能に任せて戦っているように見える。
 その様子とエスゴロクの副会長とがまったく結びつかない。
 その上、あのときの副会長は、本当によく反則狙撃を動かし、反則狙撃の能力以上に、動かそうとしていたのである。つまり、俺以上に動けるという可能性があるのだ。
 舞師は反則狙撃よりは動くと思う。大剣を巧みに扱う様子が舞のようだといわれるほどだ。銃を振り回す必要がない俺とは、使う筋肉からして違う。だが、それは速いというわけではない。大剣を振り回して、典雅な舞に見えるほど動きが滑らかで無駄がないというだけで、俺よりも素早く動けないのだ。
 そうなると、副会長がなんであるか、嫌なところにたどり着きそうになり俺は軽く首を振った。接触する機会がない人とはいえ、背筋が凍りそうな結果になりそうで、俺は考えるのをやめる。
「アンに、誘われましたか?」
 舞師の問いに、俺は怖い想像からなんとか逃れようと、頷く。しかし、現実はあまりにも想像の近くにいた。色々考えさせられる舞師が近くにいたのでは、想像からうまく逃げることができない。
「ふふ、珍しい。よほど気に入ったんでしょうね。誘ってみてはといったのは私ですが、本当に誘うとは」
 もやもやとした気持ちを抱えたまま、お前のせいかよと心の中で毒づく。それのせいで、あの暗殺者の誘い文句を見せられたのなら、随分な迷惑である。
 だが、よく考えなくとも悪いのはあの誘い文句を考えた暗殺者であって、舞師ではない。俺は気分を切り替えようとした。
「そんな嫌そうな顔をしないでください。悪い人ではないんですよ、アンも」
 それでも思ったことがそのまま顔にでてしまったらしい。
 舞師が柔らく楽しそうに笑った。
 それはからかっているようであり、友人の常ではない様子を喜んでいるようでもある。
「だが、少し……怖くないか?」
「怖い? 貴方もそんなこと思うんですか?」
 舞師とは選択した武器が違うし、クラスも違う。学園が行う各種戦闘訓練、イベントごとで対面しない限り会うこともない。同じように変装後は有名人といえど、トピックスや噂でしか見ない遠い存在だ。先日のコンビ戦闘もあり、その相方と少々縁ができてしまったが、現在、知り合いといえるほどの間柄ですらなかった。
next/ hl-top