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どうして銃に名前がついているのか。
どうしてそんな平気な顔をしていられるのか。
どうしてお前一人で残るんだ。
どうしてこの仕事は最初から貧乏くじを引かされているんだ。
聞きたいことや言いたいことはたくさんあった。
どれもたいしたことはなく、聞けたし、言えたことだった。
しかし、少し前に曖昧をはっきりさせたことが、俺にはっきりしない状態を作りだしている。
今まで聞けていたし、言えていた事が、詰まって出てこない。
頭をよぎっては、喉元が詰まった。
くだらないこともある。
聞いてしまったら、後悔するかもしれないこともある。
けれど、それらはどれも、今じゃなければ喉を詰まらせるようなことじゃない。
喉がすっきりしない中、出せた言葉が弟の呼び方に対するものとは、本当に、俺は弟にどれだけ嫉妬すれば気が済むのだろう。
特別な呼び方ではない。学園にいて、弟が生徒会長であるという事実を認めていれば、誰でも呼べる通称だ。
いつまでたっても、弟が親しいといわせてくれないがために身に染みついた呼び方だというのは解る。
けれど、それだけの時間があることや、それを変えずにおいたことが、何か特別であるように思えて、嫉妬した。
学園から離れているから、そう思うのかもしれない。
ここは学園ではない。だから、学園の生徒会長である弟を会長というと、少しだけ、風景になじまないのだ。
たとえどのような場所にいても、弟がそうであるという事実があれば、何もおかしいことではない。おかしいのは、こんなことに反応して尋ねてしまっている俺だ。
こちらは距離感を掴むために他と同じように呼ぼうとして四苦八苦しているというのに、それを簡単にやってしまっているようにも見えて、それもこちらを思い煩わせる。
バカらしいと思う。
平然とした顔ができない。
どうして俺はこんなことを考えているのかと、ストレスを発散するためにも日課の鍛錬に励めば、ストレスの一部が眠そうに朝帰りだ。
それもなんだか腹立たしく、八つ当たりにバターナイフを投げれば避けられ、それもまた苛立つ。
鍛錬が終わって、八つ当たりに睡眠妨害をしてやろうと小さいことを実行しようとして、顔を覗き込んだら、幸せそうに寝ていて、俺も眠くなった。
少し寝て、起きるというのは得意ではない。充足した睡眠をとっても、起きるという行為自体不得意な分野だ。
なら、起こさせればいいと、すぐ近くで寝てやった。
顔を見ながら寝るのは気恥ずかしいし、顔が好きなわけでもない。足元は、寝相がよくても気になるし、頭も気になる。たとえ頭をむけて寝たとしても、それはそれで、気になる。
後ろが一番落ち着くのではないだろうかと思い、背に背を向けて寝た。
視界に入らないことへの安心と、視界に入っていないけれど背後にいるという安堵感をとったのだ。
短い眠りから覚め、団長の天幕でキョーの背中を眺め、ふと、思う。
疲れているな。