大通りに十字にかかる少し小さい道沿いにある灰色の大きな建物。それが、商業都市立図書館だ。
大きな窓を隠すように木々が立ち並び、中を見えなくしているだけでなく、光の入り加減も調整されている。
湿気は本の大敵であるが、それを殺すだろう日光も同じように敵だ。それらを避けるように、建物は大きく、風通しがよく、作られている。
大きな窓は本の保存場所ではなくまばらに人が座る場所についており、その窓もまた、木々のおかげで光を中にあまり入れない。
それでいて少しも薄暗く感じぬように明かりがあった。
「魔法光、やな」
「本には普通の電灯よりやさしいからな」
図書館内を、本を探しているふりをしてゆったり歩く。
図書館は上に三階、下に一階の建物だった。
入ってすぐみえた階段の手前に、建物の簡易な地図があり、それで確認すると、大きく分類して地下一階は閉架図書、一階は一般図書、二階は魔法関連書、三階は魔法書だ。
「何処にあるんやろなぁ」
「あれは、魔法書じゃねぇから」
「そうなん?」
「一般書籍にあたる。普通なら閉架のほうにあるものだ」
俺が団長に教えてもらったのは、主に外装だ。
本が禁書扱いなのも、一応聞いた。
俺はてっきり禁書扱いの魔道書だと思っていたのだが、一織が俺よりも詳しく本のことを知っていて、目的の本は普通の禁書だと判明した。
「ほんなら、閉架の方かな」
ある時代のものから魔法書には魔法書印という判が背表紙に焼きいれられたり、押されたりしている。古い書籍になると判は押されていないのだが、そこまで古いと紛失を避けるため閉架図書扱いになる。そのため、魔法書を納めている棚にはその印が並んでいるはずだ。
その中に判が押されていない本を置くのは逆に目立つ。
禁書なのだから、判のことがなくても、普通ならば一般公開されていない本も置いてある閉架棚にあるものなのだが、図書館の所蔵本ではないのなら、一般書籍に紛れていてもおかしくない。
それでも閉架と言ったのは、誰に聞かれてもいいようにだ。
「聞いてみるか?」
「そやね、一応ね」
辺りを見渡す。
子供が多く見られる、図書館入り口から一番近い、広いスペースのうるさいくらいの色合いから目をそらしていった。明るい色合いから次第に暗い、落ち着いた色合いになっていき、少し入りにくさのある雰囲気を通り、入り口に向かうにつれ、再び人に安心感を与える空気に戻る。
子供向けのスペースのちょうど向かい側に当たる場所に端末はあった。
その近くには貸し出しカウンターがあり、返却ボックスも近くにおいてある。
そこで本を分けながらも、貸し出しの対応をしている図書館員を見つけ、俺は表情を変えた。
「すんません、ちょっとええですやろか」
貸し出しの手続きが終わり、一息ついたその人に笑みを向ければ、同じような笑みがこちらに返ってくる。
「はい。なんでしょうか?」
俺は少し悩むようなそぶりを見せながら、書名をわざと間違える。
「神前航路やったっけ」
「神前陸路推論記だ」
隣にいた一織が正しい書名を教えてくれた。
「そう、それ!」
その様子に、対応してくれた図書館員は少しだけ親しみが湧いたのか笑みの種類をかえた。
「ちょっとお待ちくださいね」
図書館員は貸し出しカウンターにある端末機をしばらく操作して、少しだけ唸ると、こちらに顔を向ける。少し残念そうだ。
「こちらの本は、閲覧禁止の棚にありまして、貸し出し、閲覧、ともに出来ない本です」
「そうなんですか?」
「はい……」
「そりゃ残念やな……似たような本とかあります?」
「神前の本ですか?地理の本ですか?」
俺はしばらく考えたふりをして、地理の本を探してもらうことにした。
図書館員がいくつかピックアップしてくれて、メモしてくれた紙を渡してくれたので、それを片手に礼を言うと、一織に声をかける。
「ほな、一緒に探しに行きましょか」
絵に描いたように面倒そうな顔をした一織に、図書館員には一織が俺に付き合わされて渋々ついてきた友人のように見えたことだろう。
また少し笑っていた。
俺は図書館員にもう一度礼をいって、地理の本が置いてある書棚を探しに行く。
「図書館の蔵書でもあるみたいだな」
「閲覧禁止の本なぁ……」
それを他所から奪うということは、よほどその本が必要だったということになる。
閲覧禁止で、しかも、本のタイトルどおりの内容ならば、神の前の時代……滅びたとされるより前の時代の、何かの陸路の本だ。
これを買い付けたのが、魔術都市の旧家だというのも本の価値を伺わせた。
「……これ、ちょっと、重たいで」
「今更だ」
頭が痛くなるような仕事である。