「魔法機械都市の本なん、あれ」
「見せてもらった依頼書ではそうなっていた」
一織本人は依頼された本と自分自身が見た本が一緒の本であると思いたくないようだ。あくまで決定打に欠けるというような言い方をする。
「ほんで、一織が見た本と同じ本なん?」
もう一度詳しく問うと、眉間に皺を寄せ、うんともすんとも言わなくなった。
同じなのだろう。
見て、触って確認したわけではないが、他の本は見ているし、触っている。
そのときに気がついたこともあるはずだ。
「そやったら、同じ本やと仮定して」
「仮定かぁ……意地悪いよね、叶丞くん」
それを俺に言ってくる和灯も結構な意地悪である。
先ほどからはっきりしない一織も同意見のようで
和灯を少し意外そうな目で見ていた。和灯と一織はそれほど仲がいいというわけではなく、まだ、本性を見せ合っていない。だから、意外と意地の悪いことを言うことを知らないのだ。
それほど仲がいいというわけではないのは俺と和灯にもいえることで、和灯はまだ、俺に対して大人しい気がする。
「……仮定して。位置特定は難しくないもんなん?」
「……仮に、そうだったとして、本の位置の特定はそれほど難しくない。魔法の相互干渉の関係もあって、魔法が多く使われる場所はものの配置を考えるか、遮断する何かが必要になる。遮断されていれば解りにくいが、遮断はされていない。あの図書館の規模からしてもそこに割く予算はない」
図書館の予算具合を予測できるくらい、一織は本を読んでいる。しかし、簡単に断言できるほど、あの図書館に居たわけでもない。この自信はいったいどこからやってくるのだろう。
「一織さん、もしかして商業都市に一回来たことある?」
俺も和灯の言うように考えた。一織が一度商業都市に来たことがあり、あの図書館にも行ったことがあるというのなら、なるほど、一織の言うことは頷ける。
しかし、一織は軽く首を振った。
「いや、今回が初めてだ。初めてなりに、ガイドブックも読んだくらいだ」
「そっか。じゃあ、図書館の紹介も読んだんだ。なら、納得だよ」
ガイドブックを読むとは旅行を楽しみにして浮かれているのか、真面目に都市のことを知りたかったのか分かれるところだ。
俺は困ったら歩いている人に聞くほうだし、名物や名所すら人に聞こうと思っていたから、ガイドブックを読むことも事前に調べることもなかった。まして、今回は旅行ではなく仕事をしにきたのだから、楽しみにするという感覚もない。少しの休みくらいはあるだろうし、何もしてはいけない一日もあることだし、ふらっと都市を歩くくらいは出来るだろうけど、何も考えていなかった。
「ガイドブックに図書館のこと書いてあるん?」
「そう。一応、見所の一つにされてるんだよ。魔法の理論に基づき配置された本は芸術といっていいほどの構成とか。図書館の人が説明もしてくれるんだよ。実際のところは、予算がなくて配置に凝るしかなかったんだけど、それを逆手にとった形かな」
そう紹介されているのなら、見える場所はそうなのだろう。予算が理由ならば、見えない場所もそうであるかもしれない。
「ほな、閉架も遮断されとらん可能性が高いちゅうことか」
「高いも何も、閉架もそうだよ。僕は一応、閉架も覗ける資格、持ってるから」
それならば、内部調査が簡単に出来たのではないかと思ってしまうのだが、和灯は和灯で仕事をしている。その上、それを団長がさせていないということは、その必要性を感じていないということだ。
もしかすると、俺や一織に、その程度のことができないでどうすると思っている可能性だってある。
「やったら、おひぃさんが見たら一発ちゅうことかな」
「そうだね、見える範囲なら」
俺と和灯の視線が、一織を刺す。
一織は、憎らしい顔でこういった。
「魔法だけ見るんだろう?あの図書館なら、ワンフロア楽勝だ」
どういう風に見えているのか、少し気になった。
俺が気配を読む場合、建物などが見えているわけではない。目に入る範囲でしか、風景は見えないのだ。
気配は本当は読むというより、あると感じるだけで、確たるものではない。実に曖昧であるが、それを確かだと思えるほどの感覚を掴んでいるのだ。
その気配を記憶している物の位置で大体を予測し、時には、見るための魔法を使うから、俺は位置まで把握できる。
一織の目の場合、あくまで見るためのものだ。
本が見える範囲で魔法が見えるのか、魔法だけが障害物も越えて見えるのか、どちらか気になる。
俺は魔法に関する見たり感じたりするものは、こーくんにあげてしまったので、あまり見えないし、あまり感じないのだ。
だからこそ、一織がどういう風にものを見ているか解らない。