反則狙撃は、反則だとかずるいだとか嫌がられることが多い。けれど何かを恐れるような行動には出たことがなかった。そこも戦闘の一部だと、俺が考えているからだ。
「少しと控えめにいったが、暗殺者はかなり怖いと思う」
実のところ、暗殺者は間合いの違いからかなり怖い存在である。
しかも間合いに入られれば確実に戦闘領域を離脱させられるではなく、確実にヤられるといわれる人間を怖いと思わない人間は少ない。俺も例外ではなかった。
「……噂ほど怖くはありませんよ?」
「そうか? 距離感が掴みにくいのは恐ろしいと思うが」
「それは、アンに伝えておきますね。反則狙撃が褒めていたと」
「怖いから、褒めて伸ばすようなことは止めてくれ」
舞師は笑うばかりで、俺のいうことは聞いてくれそうにない。
俺は、また首を振る。舞師はあんな冗談をいってくる暗殺者の相方だ。それなりにいい性格をしているのだろう。
だが、暗殺者よりもマシだ。あの暗殺者の得体のしれない怖さが舞師にはないし、嫌がらせを誘い文句にするようないやらしさを舞師には感じないからである。
「伸びると困るのは私ではありませんから……私は、アンに追いつくために少々頑張るのみです」
そして、人の悪さと良さがにじむ舞師を少しだけ見つめたあと、ようやく俺は決めた。
「舞師のチーム、入らせてもらえるか?」
「ありがとうございます! お願いしますね」
自然と目の前に差し出された手を取り、緩く握手をする。
相変わらず柔和な表情を浮かべる舞師であったが、不意に何かに気がついたのか首を傾げた。
「そう思えば、他のメンバーは教えてないんですけど、いいんですか?」
「選べるような時間もないんだが……暗殺者への断り文句を考えなくていいと思ってな」
「アンは、やはり変な誘い方をしたんですか」
俺が肩をわざとらしく落とすと、舞師がため息をつく。
「まったく、本当に仕方ない人ですね。ですが、反則狙撃をチームに入れられてほっとしましたので、良しとしましょう」
ほっとするほど俺がチームに欲しかったのだろうか。俺は舞師が俺に求める役割を知るために、口を開く。
「それで、メンバーは?」
「あ、はい。メンバーは、私と追求と人形使いです」
「……俺は必要なさそうなメンバーだな……?」
舞師の様子を見る限り、俺は必要な人員であったようだが、俺からしてみれば前衛がもう一人欲しいメンバーである。
舞師は大剣使いであるから、攻撃力は高いし、防御力もそこそこある。しかし、その後ろに二人も魔法使いを控えるほど守りがかたいわけではない。
追求は学園にある研究塔の秘蔵っ子として名高い本物の魔法使いだが、研究者である。魔術も法術も使え、その二つを掛け合わせた魔法が使えても、戦闘向きではない。
人形使いもまた、あまり戦闘には向いていない魔術師だ。人形を操るということに特化した魔術を使う変わり者で、戦闘能力の低さやその術式の特異さから人形遊びという名前でも呼ばれている。
魔法使いは結界が張れるため、魔法が発動しさえすれば防御力が高い。しかし、発動できるのならである。魔法が使われる前に魔法使いを倒してしまえば、防御力など鍛えられた奴らを前にないに等しい。
そうさせないためにも、もう一人防御役の前衛を置き、攻撃力が高い舞師を敵にさしむけるのが賢いやり方だ。
防御力など期待すべきではない銃使いを誘うのは愚策といえよう。
「そんなことないですよ。貴方にはその速さで牽制と相手方の魔法使いを蹴散らしてもらいたくて」
確かに銃の火力とスピードで敵を翻弄し倒すという手もある。しかし、舞師は暗殺者という飛び道具顔負けの男を簡単にチームメンバーにできるはずだ。どう考えても俺は必要ないように思えた。
舞師が相方にふられたというのなら、俺は深く同情しただろう。だが、舞師は暗殺者に俺を勧めている。
俺はそこまで考え、舞師を改めて見た。
気まぐれに俺を誘っただけなのかもしれない。たまには相方以外と組みたかったのかもしれない。俺が募集をかけたのが、目についたから誘ってくれたのかもしれない。
俺でなければならない理由は必要ないのだ。
しかし、俺は、何かしっくりこなかった。
「チームメンバーになるといっておいてなんだが……勝率をあげるなら、俺よりもっと堅い奴か、速いやつがいい」
「正直な方ですね」
確かに正直な感想を述べている。しかし、俺はしっくりこないことへの回答を求めていた。
現状の何がしっくりこないのか、舞師の何に引っかかっているのか。俺が記憶を辿ろうとしたところで、舞師が違うことばをくれる。
「大丈夫です。やってみればわかりますよ。追求と人形使いもそろそろ来るはずです。顔を合わせて、少し身体を動かしてみませんか」