そうして街で一暴れし、買い物を済ませて帰ってきた天幕には、会長がいた。
依頼に対する礼だとか、他の依頼があるだとかありそうなものなのだが、そのときの会長は俺と一織を怒りにきたといっていた。
しかし、怒られている張本人である俺でなく、第三者が見ても、怒られているのは俺だけだと感じただろう。
「大体なんで、てめぇは兄貴使ってんだよ」
「いや、使っ……たけども!」
散々、盗人の真似事についてひとしきり常識がなっていないだとか、どうして街中でドンパチする必要があるのかだとか、どうして兄貴と一緒にいるのだとか、途中からどう考えても今回のことは関係ないことで怒りをぶつけ始められ、正座をして項垂れたまま、遠くの気配を探ってしまったくらいだ。
そして、不意に的を射たことを言われ、あてどない気配探しを止め、顔を上げてしまった。
会長は、正座をして、俺の顔が随分低い位置にあることをいいことに、楽しげにさえ見える表情でこちらを見下す。
「一番穏便や、と、思いまし……て」
「へえ?」
少し裏の入ったいやに上から下に下がる声色を聞いて、背筋を冷やしながら、俺がこの人に頭が上がることなんてあるのだろうかと、そんなことを考えた。
ないかもしれない。
大変切ない気分になりながらも、俺は言い訳らしい言葉を並べる。
「図書館に保存された他のものが壊れたりしないで、かつ、こちらの身が犯人以外にばれず、さらには、なんと短時間で本がとってこられる!」
俺から距離をとり、弟の様子を眺めているだけという、反省の色がまったくなさそうな一織が小さく呟く。
「わーすてきー」
まったく反省していない。俺の八つ当たりでなくても、反省なんてしているわけがない。
その声は、会長には都合よく聞こえなかっただろう。しかし、一緒の天幕に居た団長には聞こえていたらしく、小さく噴出していた。
「なんだ、その買い物に迷っている奥方のためにする話し方みたいなやつは!」
頭は上がらないし、一織の様子を反省していないと称するが、俺だって反省する気はない。
だからといって、ふざけているわけでもなかった。
「いや、たまたま、たまたまやで!」
「兄貴が『わーすてきー』っつったじゃねぇか!」
しっかり聞いていたのなら、何故一織に注意をしない。
会長は、俺だけを怒りにきたのだ。
そうに違いない。確信した。
「まぁまぁ。そろそろ、二人にも仕事に戻ってもらいたいし、それくらいで勘弁してやってくれませんか」
喜びの声を上げなかった俺を褒めてもらいたいくらいだ。
「……解りました」
会長が本当に渋々、俺に文句を言うのを止めてくれたので、俺は喜びのあまり、その場に崩れた。
「叶丞くん、もしかして、足が痺れた?」
団長の疑問に、一織がわざわざ俺に近寄って、足を蹴ろうとするので、俺は地面に足を擦りながら、逃げた。
「いややわ、痺れとりませんよ」
「そうか、痺れてるか……」
「痺れとりませんて」
執拗な一織の攻撃を何とか避けて、俺はただ、首を振る。
「ん。解った叶丞くん。ちょうどいいから、君は残って。ご実家から連絡きてるから」
「じっ、ぎゃ」
俺が団長の言葉に気をとられた瞬間を狙って、会長の足が俺の足に触れた。
会長は容赦なく踏んでくれたので、俺は本当に惨めな悲鳴を上げる。
「そう、さすがに年の初めは帰ってきなさいって」
一織は執拗に俺の足を狙っていたにも関わらず、実家という言葉に俺と同じような反応をして、俺の足を狙うのを止めた。
「……さいですか……」
足を抱えて何とか出した声に、団長が頷く。
「足が痺れている間は、ここにいてもいいから。そうだ。ここの通信機使って、ご実家に返事いれて」
俺が頷くと、一織が、会長を促して天幕の外に連れて行った。