こーくんの恐るべき運転も慣れてしまえば鼻歌ものだ。スピードが出て、早くて素敵などということも言える。
商業都市に帰るときに使った交通手段は、今回の休み中いやというほど使うことになった。魔法自走の試乗だ実験だといって、バイト代わりにのらされ、データだなんだと研究機関にも色々調べられれば、危険な運転にも慣れようというものだ。
おかげで解ったことは、俺は意外と乗り物酔いに強いということである。収穫は少ない。
そうして休暇を楽しんだのだが、その間にとんでもない情報が魔法機械都市に……俺の元に届いた。
情報が伝達されるスピードというのには優先順位というものがある。
たとえば、商業都市は魔法のことよりも、機械技術のほうが伝達が早いし、機械技術よりも何かの材料になるだろう物品や、これから必要になるかもしれないものに対しての情報が早い。
たとえば、魔法機械都市は機械技術、魔法技術共に新しいものの情報が早かった。
だから魔術都市から発された魔法技術も、祝祭中でも大きく取り上げられ、俺の元にも速やかに伝わられたのだ。
魔法の力を小さく抑えることが出来、かつ、魔法を維持する技術であるとなれば、祝祭もあって大きな祭りとなった。
俺はその魔法がのっている詳しい記事を見て、すぐ、その魔法が、魔術式が、誰のものであるか理解したのである。
そして、学園に戻り次第、俺は良平を見つけ出し、誘い文句を口に出したのだ。
「良平、魔法機械都市に移住せぇへん?」
良平は寮の食堂にいた。
生徒が帰ったばかりの寮の食堂は、俺が早々に学園に帰ってきたせいか、人が少なく閑散としている。
「……は?」
その人もまばらな食堂の一席で、詰まらなさそうに携帯端末を触っていた良平が俺を見上げて首を傾げた。
詰まらなさそうな上に、不機嫌そうな良平と顔を突き合せるべく、俺は向かいの席に座って、にっこりと笑う。
「ここ卒業したら、魔法機械都市に帰る予定やねんけどな」
「おい、なんで今、急にそんな話」
良平が俺の不審な行動に携帯端末をもったまま唖然としている姿に更に笑みをこくしつつ、俺は良平の持った携帯端末に指先を置き、下へと押した。
画面は傾き、俺にも何が表示されているかが見える。それは、魔法機械都市に歓待された魔法技術のニュースだった。
今のところ、その魔法技術は高い評価を受けているが、新しく改良を加えたとか他の技術に繋がったというようなことにはなっていない。
「これ、良平のんやろ?」
「……それはどうでもいいんだよ、おまえ、人の話聞けよ」
俺が指で押さえた携帯端末をちらりと見た後、それでも呆れたような調子で言った良平の様子は、なおも不機嫌そうだ。
「捨てる覚悟はあったやろけどね。おもんない展開やろ、これ」
「だから」
それは良平にとって触れられて愉快な話題ではない。
次第に俺にイライラし始めた良平に、俺は更に続けた。
「発表されてしもたもんはもとにもどらんけど、堂々とかつ、他人を出し抜いて、しかも横取りされへんように、研究してみようと思わへん?」
俺は漸く指を携帯端末から離す。
良平は俺を睨みつけるように見た後、眉間に皺を寄せていった。
良平はあまり、こんな顔をしない。人相が悪くなっていく相方に、俺は性格が悪そうなといわれる笑みを深めた。
「その上、これからの新しい魔法も守られる、研究予算も確保できる。ええことづくめ」
魔法技術のニュースを聞いて、良平の魔法だと確信した時、俺は声を上げて笑ったものだ。