「条件……」
良平は地を這うような声を、搾り出す。
「ああ、やっぱ、良平は良平やねぇ。さすが相方。そんなうまい話はないなぁちゅうのようわかっとる」
俺は睨まれたまま、きつくなる一方の視線を真っ向から笑ってやる。
良平がどんなに珍しい顔をしていても、俺は良平の魔法だと気付いた時のように笑っていられるのだ。
あまりに、愉しすぎて、そう、笑みが抑えられない。
「魔法機械都市でほぼ軟禁扱い。それが生涯続くちゅう感じや」
「都市に、守ってもらう、のか……?」
良平を魔法機械都市に持って帰る口実ができたのである。それは笑わずにはいられないだろう。
「そう、都市に貢献しさえすれば、好き放題」
俺がそういうと同時に、人が少なかった食堂に大きな怒鳴り声が響いた。
その怒鳴り声は、新技術である魔法は猟奇の魔法だと訴え、誰かと口論する。
良平は動きを止めて、その口論を少し聞いていたように思う。他人が怒ってくれていることに、気分がかわったのかもしれない。良平は、俺に向けた視線をゆっくりと逸らした後、気持ちを落ち着かせるためか、大きなため息をついた。
「それでお前はどうしたいんだよ」
心底呆れてしまったような声で言い捨てた良平に、俺は悪そうな笑顔から呑気な顔に戻り、踊りだしそうな心持ちでペラペラと口を動かした。
「俺も、ちょっとした軟禁状態でな。それが生涯続くわけなんやけど、相方おったら、ちょっとましかなぁちゅう建前のもと、人生をもっと明るく楽しくするため、ひいては学園だけでは遊び足りん俺のため、巻き込んでみようかなちゅうな」
「あのなぁ……」
誰でも生涯を左右するようなことに、すぐに答えが出せるわけではない。
急に一生に関わるようなことを言われ、良平は文句が言いたいようだったが、俺に言うことが見つからないらしかった。虫でも噛んだような顔をしている。
「言うても、良平。これは自由意志やで。どうするかは良平の意志やし、俺は繋ぎはとるけど、売り込み方や食い込み方は良平次第や」
ついに頭を抱えて項垂れた良平を眺めながら、俺は、休み中に疑問に思っていたことを良平にぶつけた。
「それにしても、何で発表してもうたん?」
良平は唸るばかりで、なかなか答えをくれない。
仕方なく項垂れてしまった良平を見るのは止め、良平の気分を変えてくれた怒鳴り声の持ち主を探す。その持ち主はなおも口論中で、簡単に見つかった。よく知っている顔で、また笑ってしまう。今度は可笑しくて、笑った。
「……俺のもんにはならねーとは思ってたけど、なんつーか、あれだけに拘る必要が、今更ねーなって」
俺が笑った理由をなんとなく解っているのか、項垂れたままの良平はそれについて何も言わない。
「可能性つーか」
良平の言う可能性は二年の進級課題を出されたときのことが深く関わっている。
昨年、術式を他人に漏らしたということは、良平に変化をもたらした。
魔法の研究を共にすることにより一人でするよりも時間を得ることができたし、研究を共にすることにより他人の発想に触発される事だってあっただろう。それまでよりも、研究がはかどるようになったらしい。
そのうえ、良平だけのものだった術式は、友人間だけだとはいえ、他の人間も使うものとなった。
そこで良平以外が使うことによって発見することもあれば、良平とは違う展開の術式になることも実感しただろう。
「あれの可能性は、俺だけがもってたって広がらねーし。他が広げてくれたのをさらに広げるのもいいんじゃねーかなと」
「で、隠されないように注力して発表したら、他のやつにとられてもうたと」
「わかってたからいい」
いいという割には、不機嫌そうであるし、休み前も現在も携帯端末を手放さない。
術式の行く先が気になるのもあるだろうが、解っていても気に食わないのだろう。
そうでなくては、あんな顔で俺を睨んだりしない。
「ええ返事貰えそう」
思ったことをそのまま口にすると、良平が顔を上げて俺を胡散臭い詐欺師のようなものを見る目で見ていた。
嘘偽りのない事実しかいっていないというのに、失礼な話だ。
「そういうのは思っても口に出すもんじゃねーの」
俺はわざと首を傾げたあと、いつになったら終わるのか解らない口論現場から視線を外した。
「とりあえず、お前に答える前に、仔犬チャンなでなでしとくか」
俺の代わりに良平が現場を眺め始める。
その代わりに俺は深く、項垂れた。
「……良平くんのなでなでとかあれやわぁ……また、ワンちゃんキャンキャン言わせるだけやと思うわぁ……」
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