いい返事は貰えそうだが、先延ばしにされてしまった俺は、そのまま寮の食堂で飯を食うことにした。
「なんやメニュー変わっとる」
「文化祭のあと、試作を重ね、申請を通し、新しい年になったから、お披露目なんだそうだ」
「へぇ……そうなん……ちゅうか、なんや、そろそろビックリもせぇへんなってきたぞ」
俺が注文カウンターでメニューを見ていると、後ろからいつものごとく気配を消しきりやってきた男が声をかけてくれる。
振り返り、確認をすることはないが、俺の背後にそうやって立つのは一人しかない。
「驚いたことがあったか?」
「……心の中でビックリドッキリしとったかもしれんよ」
「俺の中で覚えがないから、なかったことにしておく」
それは強引な言い分だが、俺も最近は驚いた覚えがなかった。昔は驚いていただろうかと記憶を辿ることもしないで、食べたいものをカウンターの向こう側にいるお兄さんに言った。
「ほんで、おひぃさんお休みはどうやった?」
「軽く流したな」
「楽しく仕事に狂うたりした?」
後ろから俺と同じように新メニューの一つを注文する声がしたあと、ふと俺の後ろにいる一織が笑う。
「遊んできてやった」
「うっわ、やな感じやわぁこれやから、ハイスペックな野郎は」
真後ろからずれて、俺の隣に並ぶと白い石でできたカウンターに手を置き一織が再び笑った。
嫌な感じの鼻に抜ける……そう、嘲笑に近い。
「魔法機械都市でもバイトしていたやつに言われたくない」
「俺かて、久しぶりの帰郷やし、遊んどったに決まっとうやん」
対抗して遊んだといってはみたものの、悲しいことに朝から晩までこーくんやら母親やらの研究ばかりではなく、魔法石関連の研究者にも付き合って、金と石を巻き上げてきたため、遊んではいなかった。強いていうのなら、その研究でちょっとした実験をしたことが遊んだというのに入ったかもしれない。
「その割には、服新調しただろ」
「なんやそれ、ちょっと怖いで」
その服をはじめて着たとか、今まで着ていたものとは違うデザインの新しい服を着ているというのなら、一織が気がついても何も言わなかった。
ようわかったなーとか言って盛り上がることも出来たかもしれないが、デザインは前と同じもの、魔法機械都市でも着用している。
日数的には新入りだが、実験のために着ていたため、使い込まれているといってもいい。
「前は凝らしたら見えた」
「何が見えとるんやっちゅうか、それもなんや怖いで」
俺が着ている服と一織がよく見えるものについて考えると、魔法石のことだろうとは思うものの、説明が省かれすぎて、服の下にあるもの、身体の内部にあるもの、もしくは考えだとか心だとか誰に見えるわけでもないものまで見えているような気がしてくるのだ。
「魔法石は元々、石自体、内包している魔法が見えにくいせいもあるが、お前の服が邪魔して見えない」
「それで新調したとか言うとるんやな……?これは、実験用の服。耐魔法のために魔法を邪魔するための魔法を繊維にしとるちゅう話やけど」
俺が説明している間に、俺と一織が注文した料理はカウンターに並べられた。
俺はその料理がのっているトレイを持って、良平が居る場所へと向かう。
「魔法が見えへんちゅうことは、石の魔法も阻害しとるちゅうことかな」
「実験したんだろう?それでそれなりに問題なかったから着ているんだろう?……なら、邪魔というより跳ね返す魔法が織り込まれているんじゃないか?石の場合は発動しているわけでもない」
「なるほど、反射して俺に被害を与えるちゅうわけでもないわけやな」
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