トレイをもってちゃっかり俺についてきた一織と会話をしている間に、良平の居る場所にたどり着く。
面倒くさがりなところがある良平は、注文カウンターと冷水機の近くの席に座っていた。
「面白そうな話してるなーおまえら」
「そうでもない。そこのワーカーホリックの嘘を見抜こうとしただけで、どんどん話が流れていっている」
「ちょう待って。俺にふさわしくない名称出てきたで」
座った途端、俺と一織の話に良平が加わったのをいいことに、一織が好き勝手言い始める。
俺が待てという間に手を合わせ、フォークを手に取った一織は、トレイの上の料理に目をむけ、用意していたかのようにすらすら言葉を口から吐き出した。
「俺は、ちょっと久しぶりに会った気になる人にモーションをかけようとしているだけなのに、すぐに話を流して嫌なやつだな」
「待って?ほんま、待って?なんや、激しく進撃して来てる?」
俺は料理どころではない。少し見ぬ間に一織の意味の解りたくない攻撃が強さを増している。
「うっわーマジかよ。休み中なんかあった?」
それでも引いたようなことを言いながら、ちゃっかり俺の皿から肉を奪おうとしていた良平の邪魔をすべくトレイを動かす。
「休み中どころか、振られたり、デートしたり、振られたりした」
俺が良平から肉を守っている間にも一織は悠々と白身魚のムニエルをナイフで切り分ける。
「えー……叶丞何回振ってんの?サイテー。しかもデートして振るとか、サイテー」
口も動けば手も動く。良平はサイテーと繰り返しながら、俺の肉……特選粗引きハンバーグを狙ってきた。俺のハンバーグを渡してなるものかと再びトレイを動かす。
「いや、マジ待って?なんや、どうして振ってがもう一回あるん?」
「『本気やったら、もっとええこと言うとるわ』」
一織がデートだといった夜店まわり中に言った言葉だった。
そんなつもりはなかったというか、改めてそれだけ聞くとなんだか弄んでいるようにも聞こえる。俺はあえて解らないフリをした。
「それ振ったことになっとるん?」
「やっだー自覚ねーとか、サイテー。つーか、一回は確実に振ってるってことだろ、それ」
ついこの間まで気まずそうにしていたことが懐かしい。なんとふてぶてしい態度なのだろうと感心している間に、俺のハンバーグに良平の魔の手が近寄ってきた。
「……まぁ、ええやん。それより、良平、俺のハンバーグ狙うくらいやったら注文しに行ったらええやろ。あと、ひぃのも平等に狙ろたれ、寂しそうやん」
まったく寂しそうには見えないのだが、良平の手を分散するためにも一織のムニエルに手を出させようとした。
しかし、良平は俺を納得させる理由をもっていたのだ。
「無理無理。あのナイフで悠々と邪魔されるどころか、攻撃されて、怖い思いしなきゃなんねーだろ」
「ああ……」
「おい、ああってなんだ、ああって」
良平の手から守ったハンバーグは、いいところで育っているからマナーも完璧であるはずの一織に、あっという間に奪われた。
一瞬のことだった。
実際のところ、あっという間もなかっただろう。
白い飯の上にのったハンバーグが実に美味そうだった。
「まったく、性質の悪い連中だな」
俺も良平も、貴方には叶いませんよと言うことができない。何故なら、しっかり仕返しをされることがわかっているからだ。
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