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叶丞が居ない間に、俺の術式を発表した。
俺は専攻を増やしたが、叶丞は学園側の計らい、もしかしたら企みかもしれない。それによって三年の授業を受けている。教師曰く、更なる高みに上ってもらいたいそうだ。
俺は専攻を増やした分、各専攻に割く時間は少なくなった。それを補うために必要なものと不必要なものを分けたが、それでも、俺の時間はうまく回らない。
俺も叶丞と同じく前へ進むために選択をしたはずだったのに、何故か、叶丞だけが前に進んでいるような気がした。
それは、気のせいだったのかもしれないし、俺もうまくできなかったなりに進んでいる気はする。
しかし、叶丞が三年生といる姿は目に見えて進んだように見えた。
焦っていたし、後悔もしていたと思う。
何故、術式を教えてしまったのか。今更いっても仕方ないことで、それで得られたものも少なくはない。
しかし、叶丞が研修などにいくと、ふと思うのだ。
これでいいのか。
文化祭で負けたことも俺を悩ませる。
俺は、これでいいのか。
たいしたことではない。
どれもちょっとしたことで、俺も叶丞も答えは出していた。
それでも思ってしまったのだ。
これでいいのか?
そうして俺は、術式を手放した。
きっと俺の力では、隠されることを阻止することぐらいしかできない。解っていた。
そうしてやはり、後悔する。
それすらも、解っていた。
毎日、ニュースを何度も見て、確認する。俺は隠されないように尽力したが、このまま外に出ないのではないか。外に出たとして、誰に注目されることもないのではないか。
自信などどこかに消えてしまった。
俺の術式がニュースになり、注目されたらされたで、案の定俺のものではなくなった魔法に、腹を立てる。
解っているのではなかったのか。
だから、ニュースを毎日見てしまう。そうしていると青磁がいつの間にか忠犬よろしく傍にいた。青磁はこういうとき意外と気が回る。
だが、叶丞が居るときに限ってその姿を見ない。
青磁は、俺が青磁に求めるものと叶丞に求めるものが違っているとよく知っていた。本当に、こういうときだけお利口さんである。
休み明けに叶丞は、開口一番、俺を魔法機械都市に移住しろという。
それがいいことだからという理由ではなく、至って利己的な理由からだ。
あれは俺を慮って言ったことではない。叶丞の本心だ。
「まったく、腹立つわ」
注文カウンターに行ってしまった叶丞を見送りながら、ぽつりと呟く。
俺は、叶丞の言うとおり、いい返事をしてしまうだろう。
コンビを結成した時と同じだ。
人と違うことを否定したりはしないし、肯定的というわけでもないが、普通にしていてくれる。その上で、欲しいと思えばどういう形であれ、手を伸ばす。
まるで、認められているようだ。
「ありゃあ、一織も惚れるだろうよ」