「まぁ……全裸でぇ、来なかっただけぇ、良かったということでぇ……」
「そうだな、恥ずかしいものではないが、そのまま立ち回りするのは緊急時くらいにしてもらいたい」
何故だろう、相方だけではなく、暗殺者も殴りたくなった。
兄の寝姿を知ってしまった焔術師は悩みが多いのかもしれない。頭を抱えてその場で座り込んだ。
「焔術師が悩むようなことでもないだろ。暗殺者が少々自由で人前で裸で居ることが好きってだけで」
「さすがに、必要がない限り人が大勢居るところで全裸になったりはしない」
まるで暗殺者が何処でも全裸で居ることができるような言い方をする猟奇に、さすがの暗殺者も非難の色を声に滲ませる。
そう思えば、商業都市でも服を着て寝ていた。あの場で全裸で寝ていたら怒られるだけではなく、時期的に寒いと思うので、一体どのあたりを考慮して全裸でなかったかは少々気になるところである。
「で、結局、俺達が集められて隔離されたのはいいとして、なんで転送されたんだ」
俺達が転送されたのは学園の会議室の一つだった。
折りたたみの白い机、同じく折りたたみの椅子が並べられた至って普通の会議室だ。窓の位置、プロジェクターの位置、広さなどから会議室階といわれる学園の本館五階にあるものだと推測できる。窓の外の風景が見えたのなら特定することも難しくはなかっただろう。
「それね。僕らは先に顔合わせをすることになってて」
「交流相手とか?」
「そう。といっても、委員会員一人と、二年生代表者数名だけなんだけど」
こうして事情を知っているということは追求は交流会実行委員会員であるということなのだろう。
「……ところで、何の権力者でもない俺は何と交流するかいまいちわかってないんだが」
追求は委員会に所属しているだろうから当たり前として、学園のイベントごとに関わっていることが多い生徒会役員である焔術師や暗殺者は当然のこと、学園の一部警備に携わっている風紀委員であるアヤトリと早撃ちも、今回の交流のことを少し知っているに違いない。
だが、委員会と関係のない俺や猟奇、人形使いは少し蚊帳の外だ。
もしかしたら、人形使いは友人である役員達から何か聞いているかもしれないが、同じように役員達を友人に持っている俺と猟奇は何も聞いていない。
早撃ちが言ったこと、昨年にこーくんが交流会の話をしていたことを考えると、魔機寵栄学園との交流だろうことは解る。
「ああ、そうか。反則君とか独自の情報網持ってそうだから忘れてた」
「反則くんだけでなくぅ、興味が薄いだけでぇ、ここにいる半数はわからないと思うよぉ」
人形使いの言うとおりだ。
猟奇は珍しくアヤトリを構いたいらしく、先ほどからアヤトリが黙っていることをいいことに机の上に座ってアヤトリの腰を撫でている。
猟奇もアヤトリも平素と変わらぬ調子で、いちゃつき始めるから慣れている俺は完全に無視できた。他の連中もあまりに自然な不自然さにあとのことを思って二人の様子に何も言わず、無視している。
それもあって気もそぞろといってもいい。
「そうだね、誰一人この状況に驚かないしね」
「学園側がおかしなイベントごとしかしないせいだって。慣れってこわいな」
「なるようになれってやつだよねぇ」
危機管理能力を問われるような気もするのだが、疑うばかりでは、この学園を楽しめない。
不満は多いが、友人達はこの学園の楽しみ方を知っている。
「反則君は解ってそうだけど、魔法機械都市立魔法機械寵栄学園が今回の交流会の相手だよ」
追求はまだ俺には独自の情報網があるに違いないという考えを捨てていないらしい。
世間話程度の情報ではあったが、予想どおりの答えだった。
「さ、そろそろ待ちくたびれちゃってるだろうから質疑応答はまたあとでってことで」
追求が笑顔でそういい、ドアを開こうとした時に、誰かがポツリと呟いた。
「魔法?」