「ぐぇ……っ」
手を離されて、首元が緩まり、何とか息をした。
咳き込みながら、今起こったことを頭の中で整理する。
ドアを開くと魔法が発動し、どこかに転送された。
「これ、なんか前も経験したな」
「そうだな、今回は猟奇達も巻き込めてよかったな」
魔法と呟いたのは暗殺者だ。
俺は、暗殺者が言うことなら確かだろうと近場に居た猟奇に手を伸ばした。俺の意図を察したのか、俺と同じ既視感に囚われたのか、猟奇も片手を俺に伸ばしてくれたため、うまく猟奇とアヤトリを転送に巻き込めたのだ。
暗殺者は、やはり俺と同じ感覚で魔法だと判断した瞬間に俺の服を掴んでくれた。おかげで、首が絞まって息がしづらかった上に、俺の着ていた服は暗殺者の持っていた方向に伸びて垂れ下がっている。
「追求もそろそろ何か企むのはやめて欲しいもんだ」
「反則が言うな」
あえて暗殺者の鋭いつっこみに答えず、携帯端末を出して、まだ確認していなかったゲームのルールを確認した。テキストのタイトルは『二年代表チーム顔合わせ交流試合』だ。
「この感じからするとこれから戦闘開始ってことか」
「軽く流すな」
俺はライカとフレドを手に取り、一度瞼を閉じ、ゆっくり開ける。
「じゃあ、俺が企まなくなったらどうするんだ」
目の前に広がる景色がいくつかに分かれた。
一つは俺が肉眼で見える景色。舗装された道の真ん中で猟奇、アヤトリ、暗殺者が各自の武器を準備、確認している光景だ。
その他は、ここから遠い場所を映す。何処に誰がいるかを確認するために用意した魔法の視点がいくつかあり、背後も見られるようにまたいくつか視点を用意してある。
このいくつかの景色を見る限り、俺達が転送された場所は屋外の市街地フィールドだ。誰も住んでいない市街地に似せられたこのフィールドは臨場感の問題で、建物のいくつかに明かりが点けられている。
しかし、時間も時間だ。暗がりも多い。
「認めた」
目の前の景色に視点をおくと、アヤトリが猟奇からしぶしぶ離れ、いつもしている革手袋をズボンのポケットから取り出し装着している姿が見えた。槍は使う気がないのか召喚する気配はない。
「相棒が企まなくなったら……反則返上だなァ」
猟奇は珍しく棒以外のものもこちらに召喚した。シャツを脱いでアヤトリにそれを渡すと、召喚したシャツを着て、これもまた召喚したいつもの面を被る。
「なるほど、失礼した」
大人しく聞いていれば俺がまるで反則の申し子のような扱いだ。もとより俺は反則をしているつもりはない。
その謝罪こそ失礼である。
暗殺者は足についたベルトに留められた短剣や、他の武器を確認するように自らの身体を動かし、あるいは手を動かし何かあるのだろう場所に触れていた。
「まったく、おまえら俺のことなんだと思ってるんだ……あ、屋外市街地フィールド05だ」
「反則だと思ってるけど何か?……つうことは何か、スラムあり、高度成長の証ビル乱立ありの、ごちゃごちゃしたフィールドか」
猟奇に不満な顔を向け、頷くと、俺は気配を探し、数え始める。
「俺も反則だと思っている。なるほど、魔法機械都市に似たフィールドか」
短剣を手に取ると、暗殺者の気配が一瞬にして消えた。
今回は味方であるのだが、背中を何かが走っていく感覚に、俺は小さく首を振る。
「反則故、反則。……面倒」
既に俺が反則か否かすら面倒そうなアヤトリは手を握ったり開いたりを繰り返した後、その場で少し足を動かした。
「準備が出来たようだから、説明しながら目的地まで軽く走ろうか」
三人が頷く。
今回は体力面に自信がある連中ばかりで、移動は楽である。
「それと、反則ではないからな」
三人ともそれに対して、同時にぬるい笑みを零した。
仲がいいことだ。



◇◆◇



新学期早々、人によっては疲れを癒やす間も無く交流会選抜ゲームは始まった。
いかなる状況、状態でも動ける、対処できるということが大事である。ゲームはわざわざ遅い時間に、突然開催された。
寝ていて起きない人間もそのまま転送され、一部を除き各フィールドは混戦模様となっている。
はずだ。
「なんで僕を掴むかなぁ……」
「……一番妖しいからだ」
「疑われてるなぁ……間違えてないけど」
まず最初に会議室に移動させたメンバーは、僕が説明したとおり代表メンバーと顔を合わせることになっていた。
僕はあとから合流、他のメンバーは先に転送された場所で各々合流、集合予定であったのだ。
しかし、誰かが『魔法』と呟いたとき、比較的に傍にいた焔術師が僕の服に手を伸ばした。
僕はあまり俊敏に動くということが出来ない。いくら武器科の人間とは、積み重ねが違うとはいえ、運動神経がいい焔術師から逃げることは出来なかった。
巻き込まれてしまうと、魔法を急にいじるだなんて芸当も出来なければ別の魔法を発動させることも難しい。
転送されるだけで、危険があるわけでもないことに巻き込まれるだけだ。緊急時のための魔法を使おうとは思わなかった。
「僕は参戦予定じゃなかったのになぁ……反則君は前もやらかしてくれたから今回もやるだろうとは思っていたけどね」
今回は暗殺者の行動も早かった。反則君の服を掴んだのだ。服を掴むあたり、暗殺者も焔術師も似たもの兄弟だと思う。しかし服の袖、しかも裾を掴んだ焔術師とは違い、首が締まるのも気にせず肩口を掴んでいた。
「ま、付き合いますよ」
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