此処であったが何年目


数えられた気配は十三。
そのうちの一つは目の前で消え、二つは傍にある。
残りの十のうち四は先ほどまで会議室にあったものと同じだ。
六のうち二つは懐かしい気配で、あとの四は知らない気配だった。
「気配は俺達と焔術師、追求以外、味方のものはばらけている。魔機の生徒だろう気配は六つ。……そのうちの二つは、知ってる気配で、この二つは固まっているが、あとはばらけている。俺達に一番近いのはこの二つだ」
俺は少しずつ気配を薄くしながら、走る。
並走していた猟奇が、小さく頷いた。
「その二つから撃破っつうことォ?」
「そうなるだろうな。この二人は変わっていなければ、一人は魔法使い。もう一人は……魔法機工士だ」
「まほうきこうし?」
猟奇の後ろを着かず離れずの絶妙な距離間を保って走っていたアヤトリが不思議そうな声を上げる。俺が説明をする前に、アヤトリの斜め後ろから声がした。
「魔法機械を製作、武器とする者のことだ。どちらかというと技師なんだが、戦闘が得意な人間もいる」
俺はそれに頷き、僅かに目を細める。気配がある位置に視点を動かし、見てみると、何かに隠れることなく二人は堂々と胸を張って立っていた。
魔法使いは沙倉(さくら)といい、常に不機嫌顔だが笑うと笑窪ができる。
魔法機工士は三明(みあけ)といい、常日頃からゴーグルを付けていて、陽気な性格だった。
二人とも俺の魔法機械都市での友人だ。
こちらの学園に編入してから幾度か里帰りをしているというのに、転校して以来会っていない。最初の帰郷時に二人とも俺の急な転校に腹をたて、会ってくれず、そのままになっているからだ。
これだけ時間が経ってしまったのだから、旧友といっていいのだが、あの二人は旧友と言うと会ってくれないくせに怒りそうである。
「で、知ってるってどの程度知ってんだ?あーいぼォ?」
「……物心ついてから此処に編入するまで」
「幼馴染じゃねぇの」
あの二人のことは、確かに幼い頃から知っていた。しかし、あの二人と小さい頃に遊んだという記憶が少ない。俺は、小さい頃は外ではなく家の中に居ることが多く、近所の人間が善意で読み書きや都市のこと、その外の世界のことを教えている場所以外は、こーくんが居ても行かなかった。
その頃は幼馴染だとしているこーくんより、近所のお兄さんとしての印象が強い標といる方が多かったかもしれない。だからこそ、俺はガンショップ店員の標とシュミレーションゲームをして遊び、銃を手に取り、手にその重さが馴染む頃、武器とした。
「ちょっと違う気がするが、そのようなものだ」
「そのような、ね。暗殺者、嫉妬しちゃったりするゥ?」
久々にワンコに会えたおかげか、どうやら相方の機嫌がいいようだ。無駄に絡んでくる。しかし、もしかしたら俺がお誘いをしたばかりに機嫌が悪く絡んできているという可能性もなくはなかった。
相方の微妙な気分の匙加減に、少々ヒヤリとしなければならないこちらとしては、気分は上々態度は普通が好ましい。
「幼馴染に嫉妬しているなら、今頃、寿は自動で配信される不幸の手紙に悩まされていたかもしれない」
随分陰湿なことをするものだ。こーくんのことである。手紙の差出人が親友だというだけで内容を流し読んで、丁寧な返事をくれたに違いない。
「だが変態のような返答が来たので、もう二度と寿にはしない」
それはこーくんに嫉妬をしたということなのか、それともこーくんの何かが気に障って実行したということなのだろうか。どちらにせよ、俺が思った通り、こーくんは丁寧な返事をくれたようだ。
「おおコワ。じゃあ、俺も気をつけねぇとなぁ」
「遺憾」
嫉妬の話をしているのなら、相方に気をつけてもらうのはアヤトリの言ったように、俺としても遺憾である。相方とそういった関係であると疑われるのもイヤなのだが、嫉妬している人間に特別思うところがあるわけでもないからだ。
「暗殺者は解っててやっただけで、お前たちにはしないだろう。もっと楽しくなるような嫌がらせをしてくれると思うぞ」
暗殺者は身内とした人間を甘やかす傾向にあり、本当に嫌なことはしない。
「やだ、理解しちゃってまぁ……俺が嫉妬しちゃう」
「焦燥」
絡んでくる相方とそれに本当に焦っているだろうアヤトリを鼻で笑い、俺はもう一度、気配の位置を確認する。
会議室で会った気配は動き続けているし、他の魔機の生徒にしてもそうだ。立ち止まっている様子はない。
ただ、沙倉と三明の気配だけが動いていなかった。
「待ち伏せられてる」
「また何か悪いことでもしたか」
またとは失礼な話であるが、何も言わずにこちらに編入してしまったことは少し悪いと思っている。またについては、それこそまた今度話を聞くことにし、俺は頷く。
「ちょっとな」
next/ hl3-top