「さっきから笑われてるが、品性がないのは嫌か」
「別に。反則とそうあることが可笑しいのと、想像して可笑しいと思えるのも可笑しい上に、想像している自分が笑えてくるだけだ」
熱烈な告白をされているわりに、扱いが酷いのはそう思えばいつものことだ。気を取り直し、俺は銃を設置するのにいい場所を探しながら、暗殺者に声をかける。
「じゃあ、相棒。存分に暴れにいってくれ。もちろん、余力は残して」
「我侭なことだな」
そういいながらも、俺が設置場所を決めて暗殺者の向かった方に視線を移動させると、もう小さい姿しか見えないのだから、やる気はあるようだ。
俺はそのまま視点を魔法で増やしたものに意識を向ける。
見ているのは気配がまったく追うことができない暗殺者と、先行した猟奇とアヤトリ、三明と沙倉だ。
暗殺者は速い。先行した猟奇とアヤトリは三明と沙倉を避けて他の気配の元へと走っているので、比べられるものではないが、それでも、その二人よりも速いと感じられた。
猟奇とアヤトリが、三明と沙倉を避けていることに気がついたのだろう。三明と沙倉は俺が動いたと推測して二人とも動き始めたようだ。俺たちが気配を消しているため、沙倉がおそらく探索用の魔法を発動させた。
少し黄みがかった光の球体が、二周ほど三明のまわりを回ると二つに分裂し、猟奇とアヤトリの走る方向と俺のいる方向へと飛んでいく。俺も猟奇もアヤトリも、気配は消している。三明も沙倉も気配を読むことに長けていなかったから、多分に推測を交えて探索魔法を放ったのだろう。その推測は間違えていないのだが、いち早く魔法がやってくることを察知したのだろう猟奇がアヤトリにルートを変えさせたようだ。
探索魔法は猟奇たちとはずれた位置を飛んでいく。
俺に向かってくる探索魔法は、そのまま何の対策もしない。
魔法が見えているだろう暗殺者は巧みに避けるだろうし、俺はむしろ見つけて貰いたいからだ。
こーくんやみーさんがどこまで報告しているか解らないが、近距離が不得意であり、あくまで遠距離しか使い物にならないと思ってもらいたいのだ。
本当のところは、昔よりも出来ることは多くなったが、不得意なことはあまり変わらない。中距離、近距離は使い物にならないといわないが、不得意である。だが、今居る位置よりももっと遠くから狙い撃ちすることもできるようになった。
それは、あの二人が予想できる範囲内だ。
今以上を求める学園側は、俺の現状をまだ良しとしているが、それは予測できないほどの進化ができたからではない。今以上であり、また、未来が今になった時点で更なる向上が出来そうだから、俺は学園から何も言われていないのだ。
つまり、俺は何かを飛び越して居るわけでもなければ、飛び越せると思われている訳でもない。
「魔機のほうが卒業はしやすいな」
ポツリと呟く。
銃を設置し終わり、スコープを覗き込んだ。今まで見ていた魔法で作った視点より小さいが、似たような光景がそこにある。
もし、俺がこの学園に編入しなければ、その光景には俺も混ざっていたかもしれない。三明と沙倉の二人が懐かしいばかりに、少し感傷的になる。けれど、そこに居ないことをあまり後悔していない。
三明と沙倉を見事に迂回して走っていく友人二人と、もうすぐ三明と沙倉の元にたどり着く友人一人を魔法で追い、俺は指を引き金にかける。
「卒業を危うくして得られたものの自慢でもしてやろうか」
息を吸い込み、吐く。
スコープの中の景色に集中する。
フィールドは富裕層の高い建物を中心に、各所に貧困層の低い建物が散らばる魔法機械都市に似た場所だ。三明と沙倉はスラム街と呼ばれそうな場所で敵を待ち構えている。障害物が多量に用意されたようなその場所は、俺の攻撃に対処した結果なのかもしれない。
少し狙いにくいなと思いつつ、俺は引き金を引く。
ちょうど探索魔法がこちらにたどり着いたところだった。



◇◆◇



俺を追い越し、飛んでいった弾丸は魔法使いの結界に阻まれる。
その結界は術言二割、術式八割の魔術を主体にした魔法で作られていた。
なるほど、魔術師でも法術師でもない、魔法使いである。俺は物陰からそれを確認した。
その魔法使いが反則狙撃の幼馴染で学年も同じだというのなら、有名人だ。
もしそれが正解であるのなら、その傍らにいる魔法機工士も俺は知っている。それも有名人だった。
市立魔法機械寵栄学園、通称魔機寵栄学園の中等部のみならず高等部でも名を知られた二人である。
一人は魔法を作り上げ、実践出来るようにすることを目的としている魔法使い。もう一人は、魔法を機械のみで発動させることができるようにするだろうといわれた魔法機工士だ。
俺の知る限りでは魔法使いが使う魔法は追求ほどの大掛かりさや仕掛けはないもので、地味なくらいのものであるが、それを誰でも使えるものにしている。発動速度は追求の比ではない速さを持つ。
魔法機工士は魔術も使うようだが、それよりも、機械に特化している。いかにも魔法機械都市らしい魔法機械を使う魔法機工士でもあった。魔法石を使い、魔法機械を動かし、それを手段とする。この魔法機工士が有名だったのは、それを小型の武器に転化したことだ。魔法で機械を動かすのではなく、魔法を撃ち出す機械を作り小型化したこと、それが評価されていた。この魔法を撃ち出す小型機械は汎用化の目処はたっていないそうだ。
そんな似ているようでそうでもない二人は、二人で行動していることが多いらしい。寿はそれについて、習慣だと言っていた。
反則の幼馴染ならば、寿もそうであってもいいはずだが、寿からそういった話は聞いた事がない。その代わりに、二人については少々詳しいと聞いた事がある。
それは、寿が風紀委員長などという似合わぬ職務をまっとうしたからなのか、反則の幼馴染だったからか、あるいは両方だったからなのかはそのときの俺に興味がなかったため聞いていない。
目下、必要な情報はそれではなく彼らが一体どういった手段を持っているかだ。
魔法機械都市は手段が多い。魔法を使うために学びに行った俺は、魔法を使うための手段だけでも多く存在したことに途方にくれたものだ。
多くの手段の中、俺は結局魔法を取れなかった。しかし、魔法機械都市の手段、とりわけ魔法とつく手段には詳しいつもりだ。それが魔機寵栄学園で有名だったものならばなおのことである。
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