故に、俺は行動して、その手段がなんなのか知りたいし確かめたいのだ。
「わっおー、気配ないじゃん」
俺は結界がどれくらいの範囲に張られているかを確認するためにナイフを物陰から投げる。すると魔法機工士らしき男が、結果内から楽しそうに声をあげた。
「位置は特定できるか?」
冷たく感じる声を出したのは魔法使いらしき男である。
「ナイフを投げてきた位置ならわかるんだけどな、さすがに移動してるっしょコレ。してないようなオマヌケさぁんじゃないっしょ」
「使えねぇ」
いかにも嫌そうな顔で舌打ちする様を見ると、誰かにもそうして舌打ちしていたのだろうと思えた。
俺は魔法機工士であろう男の言うとおり、既にナイフを投げた場所から音も立てずに移動した後だ。俺はもう一度結界を確かめるためにナイフを二本投げる。
この魔法結界は見えているが、法術の言葉のせいで効果や範囲が読みにくい。魔術式がきちんと法術言に絡んでできた魔法は厄介である。俺の法術に対する理解が足りないせいでどういった効果が現れるか読みきらないのだ。
「一瞬のうちにそこまで移動して、気配を感じないのはあれかな。こーくんさんの心の友ってやつ。つーと、あれじゃん」
「生徒議会議長だ」
「コワイ!俺、駄目ぇー、反則くんまでたどり着ける気がしないよーお、ってか、何、これがシステムってやつ?マジ、ウケるじゃぁあん」
生徒議会議長とは懐かしい響きだ。魔機に居た頃、そう呼ばれた時期も一年ほどあった。そんなたいそうな呼び名の懐かしさより、寿が俺の情報をすっかり漏らしていることについて、恨み言を漏らしたい気分が勝って、俺は憂鬱である。
システムに感嘆している魔法機工士をよそに、俺は違う場所から同じ位置にナイフを投てきした。
「飛んでくる場所は違うのに、位置が全部一緒とか、偶然かな」
「そんな訳ねぇ」
俺の知っている情報通りなら、この結界を張っている魔法使いはあくまで魔法を使う。魔術も法術も使わない。攻撃魔法は効果範囲が狭い上に、飛距離も短いという。それがおおよそ二年ほど前にきいた話だ。
俺はその情報の誤差と真実を知りたい。
「神業じゃあん。でも、議会議長なら納得だ」
「結界は張り直した方がいいか」
「二重張りできるようになった?」
「まだ」
「なら、ちょおっと、俺、頑張っちゃおうか」
俺が投げたナイフは三度とも結界に弾かれた。
そのうちの二回は魔法使いの使う魔法と結界の範囲を確かめるために投げ、一回は強度を確かめるために投げたのだ。
二人に当てるためでも、本格的に壊すためでもない。
しかし、全力で援護をしてくれる男は違った。
俺の投げたナイフと同じ位置だ。正確に二回、弾丸が当たる。
「あーあーそう思えば、遠くにいるんだっけ。反則くんの気配もなんかよく解らないのずるくなぁい。ずるいよねーえー。でも位置は解るんでしょ」
「解る。ベストな位置から動かねぇ。遠い、遠すぎる。こちらの攻撃は届かねぇ。まさに反則」
「マジウケる、やっばい」
俺が魔法を読み、考えた限りでは、この魔法結界は物理攻撃のために用意されたもので、負荷のかかる場所に結界に力が集中するように出来ている。それはつまり、結界は同じ強度を保てないということだ。一箇所に結界の力を集中させている隙に他から刺激を与えると、結界の力が薄くなっている箇所は容易に壊れるということである。
余裕な様子の二人を注視しながら、俺はナイフを投げ、身を低くし、走り出す。
打ち合わせをしたわけではない、まして銃弾が飛んでくるタイミングが解ったわけでもない。
もしかすると、俺よりよほど反則な男が計算していたのかもしれない。
俺のナイフより僅かに先、銃弾が同じ位置に当たる。ナイフは狙ったかのように、位置をずらして結界にぶつかり、結界を壊した。
「なんでそっちから来る!ナイフ、飛んできたとことぜんぜん違うし、ちょっとまって」
待てといわれて待つ敵はあまり居ないだろう。当然、俺も待つことはないし、言った魔法機工士も待っては居なかった。
俺の足元を狙っての蹴りは鉄の筒に防がれる。
恐らく、それが魔法を機械で撃ち出す……魔砲(まほう)とやらなのだろう。
しかし、蹴りを防がれることは予測していた。俺はそのまま筒を蹴りつけ、軽く飛ぶと、男の肩に片手をつき倒立した。肩を押し出すように手でつき、身体を回転させる際に、もう片方の手に持った短剣で喉を掻っ切る。
何かの音も感触もこちらに届けるまでもなく、システムは魔法機工士をこの場から離脱させてくれた。
俺の知る情報が正確ならば、その間にも魔法使いが魔法を発動させられるはずである。
しかし、俺に魔法が使われることはなく、俺を阻む魔法が発動されることもなかった。
「反則の全力援護はすごいもんだな」
隣に居たはずの魔法使いは、おそらく、遠くの狙撃手に撃ち抜かれたのだろう。その姿も気配もなかった。
手段を知るには、速攻が過ぎたように思う。反省しながらも、俺はまた走り出す。反則狙撃の指示を反芻し、他の言葉を思い出しながらも他を助けに向かったのだ。
「相棒、か」
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