しぶしぶ司令官


突然の戦闘が終わり、交流会といいつつ殴り合いの喧嘩をした後の友情みたいな交友の深め方をするのだろうなと予測し、体力温存のため深く考えることもなく、携帯端末に入ったお知らせや連絡を無視し就寝した。
何事もなく朝を過ごし、携帯端末をチェックした結果、俺はまた、会議室に居る。
今度は突然飛ばされたのではなく、手順を踏んで呼び出されてから、風呂場から転送してもらったのだ。
「それで、ここにいるメンバーが交流会本戦メンバーってことでいいのか」
「そうだよ。と、いっても、僕は実行委員で交流会本戦には参加しないことになってるんだけどね」
笑顔で宣言した追求を省いても、そこには見知った顔ばかりが揃っていた。
そこそこ本気を出してもらった暗殺者はもちろんのこと、相方の猟奇、そのワンコのアヤトリ、張り倒したい笑みは追求に負けない早撃ち、なんだかんだよく一緒にいることになる人形使い、心のオアシス焔術師などだ。他にもトピックスを騒がせる後輩達のうちの三人、文化祭で俺達によって名前を付けられてご不満な静寂、その相棒の聴音、まるで三年生かのような貫禄のあるマスター、あとは二年が一人、一年が二人、名前のついていない生徒が混じっていた。
名前は強い特徴があればつけられるものだ。一年生には二年より優秀な生徒が多いが、名前を付けられる人間が、この手の戦闘に興味がないものが多いのかもしれない。
「この十三人で魔機の生徒さんと二日間戦ってもらいたいんだよね」
「チーム戦てぇこと?」
「そういうことになるね」
猟奇が面倒くさそうに口を開く。追求は追求で解りきっているくせに、それが正解でもいいんじゃないといわんばかりの答え方だ。思わせぶりな答え方ではあったが、チーム戦であるのは確かである。追求はあまり嘘はつかない。言葉を曖昧にしたり、惜しんだりして隠してしまうことが多いだけだ。
「では、作戦立案、チームリーダーは反則狙撃ということで」
俺が追求について考えた一瞬を、暗殺者は逃さなかった。
「おい」
なんの嫌がらせだと、視線を暗殺者に向けると自然にそらされてしまう。俺はまた何か暗殺者が嫌がるようなことをしてしまったのだろうか。まったく覚えがないそういうことにしておきたい。むしろ、俺がいつも周りからされているような気がしてならないくらいだ。もしかすると、これもその愛情という名の嫌がらせの一環だろうか。そう思うと少し切ない。
「あーそれいいねェー。反則で勝っちまおうゼ、あーいぼう」
出来たら楽がしたいと顔に書いてある猟奇を無視して、俺は不愉快そうな顔を作った。
俺が作戦立案者になったら、実力をよく知る相方をこき使うとは思わないものなのだろうか。
「俺よりも適任がいるだろう?俺に勧めてきた暗殺者もそうだし、人の上に立つにむく奴があと二人は居るだろう」
あえて名前はあげなかったが、焔術師とアヤトリのことである。あの二人は変装前も生徒会長と風紀委員長という生徒の上に立つような人間だ。
「嫌」
発言した後は隠れられもしないのに、猟奇の後ろに移動しておざなりに身を隠したアヤトリを見て、俺は考えを改める。アヤトリは猟奇次第で態度どころか物事の基準すら変えてしまう。猟奇が命じる、もしくは必要とする、または居なくてこの戦闘をなんとも思っていないのなら最良のリーダーになってくれるかもしれないが、今回、猟奇が居る上にそれを望んでいない。
「やーい、振られんぼ」
変装前においても常にアヤトリには二の次三の次にされる友人関係を築いているし、それについてからかってワンコをついでに可愛がるくらいの心持ちもあるから、猟奇に何を言われても構わないのだ。
しかし、焔術師に憐れまれたり、暗殺者にそれについて鼻で笑われたりするのは、心が折れるし、お前に笑われたくないと思ってしまう。
「そういうことだから、暗殺者がやればいい」
焔術師の目が少し煌いた。先程、俺に憐れみの視線を向けてきたとは思えないすばらしい転身だ。焔術師の期待の目を避け、暗殺者が首を振った。
「俺を本気にさせて置いて、放棄するのか……?いらなくなったらポイとは、悪い男だな」
センパイ不潔ーと小さく茶々を入れてくる静寂も無視して、俺は少し首を傾げる。
「可笑しいな、とっくの昔に知っているかと思っていた。切るときはバッサリだ。な?」
いつも以上に顔をしかめた暗殺者に、心の中でガッツポーズをした後、表情を緩め、焔術師に顔を向けた。
「焔術師はどうだ?」
「ア?作戦立案とかこまけぇことは向いてねぇよ。俺は判別して、決断することが出来るだけだ」
リーダーになるのは構わないが、作戦立案は断るといった風だ。
「あら〜これって、反則くんがやるしかないって感じじゃない?一年生は二年生使うなんて恐縮だよねぇ?」
黙っていると思っていたら、早撃ちはいらないところで口を挟む。
一年生達は俺達に恐縮しているというより、二年生の一部に圧力を感じているような気がしてならない。開けようとした口を閉じて頷く様子と、その場のうるさ過ぎる気配に俺は力ない声を漏らした。
「それは、俺がどうしてもやらなきゃならないことなのか」
「何事も経験だと思わねぇか、相棒」
猟奇に肩を叩かれたが、これに関していえばそんな風に思いたくもない。
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