俺は会議室の中を見渡して、ため息をつく。俺に向けられた視線が、作戦立案辞退を拒んでいる。勝手な思い込みかもしれない。しかし、少なくとも相方や暗殺者はそのつもりだろう。
「……リーダーが焔術師なら」
「俺は文句ねぇけど、なぁ?」
相方はどうしても俺に作戦立案をさせたいらしい。焔術師にわざとらしく片目を閉じた。
何か苦いものでも噛んでいるような顔をした焔術師に、さらに暗殺者が追い討ちをかける。
「やってくれるだろ」
しらっと言い切り、相方の真似をして暗殺者も片目を閉じた。いつもの事ながら実に憎らしい。
リーダーならやってもいいという態度をとったが、やる気はあまりないようだ。焔術師が相棒ではなく俺を睨みつけてきた。何処かのワンコのように遵守はしないが、焔術師は兄の言うことには大体従う。
嫌々ながらリーダーをしてくれるようだ。
「じゃあ、リーダーは焔術師くん、作戦立案は反則くんだね」
作戦に一切関わることはない追求が、歌いそうな声を出した。恐らく、楽しい観察ができそうだとでも思っているのだろう。
「リーダーと参謀が決まったところで、きちんとした今回の交流会の日程とルールを説明するね」
会議室にいた全員が追求に意識を向けたのがわかった。二年は相変わらず、各々好きな格好であったが、あるものは追求に視線を向け、あるものはその身を心持ち正す。窮屈そうにしていた一年生も、助かったとばかりに追求の方を向いた。
「交流会の期間は三日。昨日の前哨戦、今日の夕方に行われる本戦一日目、明日に行われる本線二日目。夕方には夕食会だそうだよ」
会議室にいる連中がちゃんと聞いているかどうかを確認することもなく、追求は続ける。
「次はルールの説明だね。といってもルールは簡単。いつもと同じように戦闘を行うこと。集団戦であること。それ以外は自由。魔機かこちらかのチームメンバーの多い方が勝ち。質問は?」
ルールの単純さに安堵の息をつくべきなのか、いつもと同じだと説明されて解ってしまう学園にいることを嘆いくべきなのか少し悩ましい。誰一人、手をあげることはなかった。
「じゃあ、今日は夕方までゆっくりしていいよ。まぁでも、もうすぐ夕方だけどね。ちょっとだけ親切をすると、今回も有無を言わさず召集だから、作戦会議するなら今のうちだよ」
確かに、追求にしては親切だ。
作戦らしい作戦をたてられるのは、二日目くらいだろう。今、俺が出来るのは戦力の確認である。
「そうだな、有効に使わせて貰おう。皆のできることを簡潔に教えてくれ。あと昨日、魔機の生徒と戦った奴は、その生徒のことも簡潔に。あとは……魔法使いで、連絡を取るための魔法が使える奴も申告頼む」
「嫌そうにしていた割に、やる気だな」
本日、食堂の大画面を一人で賑わせた人間の言うことではない。俺がお願いしたからではあるが、昨日誰よりも活躍し輝いてしまったのは、暗殺者である。呼び名がまるで機能しないすばらしい目立ちっぷりだった。
お願いしたときには嫌そうにしてはいなかったが、朝から食堂を賑やかにしていた大画面に舌打ちしていたのを俺は知っている。
「やることになったからには、それなりにやっておかないと教師にも、他の連中にも残念な目で見られてしまうだろ」
わざとらしく暗殺者に顔を向け片目を閉じた。使い方によっては大変腹立たしいというのは、相方を見ていたらわかる。
暗殺者が眉を跳ね上げた。
「相棒が頑張っても、反則で顰蹙もんで残念じゃね?」
相方が何か言っていたが、聞かなかったことにする。傍らにいるアヤトリも何度も頷いていたが、それも見えなかったことにした。
そんなことよりも、小さな声で『どうして片目だけ閉じられるんだ』と呟き二度ほど実践して、ただのゆっくりした瞬きになってしまっている焔術師に話しかけたいものだ。うまく出来たとして、俺には挑発や嫌味でもしてくれないだろうというのは解っていても、気がついてしまったからには何か言いたいものである。
「じゃ、思う存分反則してもらうためにも報告は俺から〜」
やはり片目を閉じながら、早撃ちが片手をあげた。
なるほど、こういう男がやるのなら、様になるもである。間違っても、相方や暗殺者の腹立たしさを煽るようなものではない。
「……あれ、強制なんだろうか……」
呟いた聴音の絶望が、顔を見なくても解るようだった。
強制ではないのだが、皆やってくれればいずれは焔術師がやる機会もくるだろうと思うと、大変心躍るものがある。
しかし、早撃ちのあとに報告をした二年の一人がしなかったためにウインクはそこで途切れた。
きっと、そいつもウインクが出来ないに違いない。