「君たちなど、この後の交流会でぼこぼこなのだからな!」
 俺は寒さを堪え、勝利宣言をした成金を頭の上からつま先まで見た。
 魔機との交流会にきている生徒はそれなりの実力があるはずである。しかしながら、この成金は違うかもしれない。
「魔法とか研究とかしよりますか?」
「何を言っているんだ。魔機の生徒議会議長といったら文武両道の戦士だろう! 君はそんなこともわからないのか!」
 一応そういうことにはなっている。これは俺があの学園に居た頃からだ。文武両道といいながら、実際はそうでもない。
 しかも、ようやく俺が尋ねたことにより得意げになった成金は、どう見ても貧弱である。ひょろっとした手足も、じたばたする動きですら鈍いような気がしてならない。
 やはり、俺の知っている通り文武両道ではないのだろう。
「……俺の知っとる高等部の生徒議会議長ちゅうたら、そりゃあもう風に吹かれることのないふくよかな兄ちゃんを蹴倒して頂点に座った、陰険そうな兄ちゃんで、確か、文がずば抜けてよくて、武はそこそこやった気ぃするわ」
「待果(たいか)のことか? 今度言っておこうか?」
 生徒議会議長などという難儀なことをしていた一織は俺の知っている高等部の生徒議会議長と連絡がつくようだ。おそらく一織が議長になるまで議長だっただろう人を思い出し、俺ではなく、成金ががたがたと震えだした。タイカさんとやらは恐ろしい人なのかもしれない。俺は緩く首をふる。
「やめたってください。ちゅうか、なんで知り合いなん」
 俺の疑問は一織本人ではなく、震えを吹き飛ばし、背伸びまでして俺に食って掛かった成金によって答えられた。
「君はそんなことも知らず、この男といるのか! あの待果と寝たからあの地位にいたんだぞ」
 成金が急にゲスいことをいいだし、俺は何度か瞬きをする。ゲスいことを言われている一織の様子を確認しても、特に気にした様子はない。それが普通なのだろう。
 おかげで成金が何故一織に突っかかってきたかがわかった。本物の実力があるお金持ちが妬ましかったわけではなく、横から栄光を汚い手で掻っ攫うような噂があったから、突っかかってきたのである。
 おそらく一織は、そういった噂が本当であってもそうでなくても、否定も肯定もしなかったし、何らかの手を打って噂を消しもしなかっただろう。
「おひぃさん、評判めっちゃ悪かったやろ」
 気がつけば俺の口から零れていたのはそんな言葉だった。
 噂自体は少し驚いたものの、先ほどから好印象をもてない成金にいわれた真偽が定かではないものに食いつくつもりもない。
「……そこは嫉妬したりするところじゃねぇのか」
 ある意味可愛げがないことをいう一織に俺はわざと首を傾げた後、成金に笑みかけた。
 一織が明らかに不満そうな顔をする。
「そや、もし三明と沙倉に伝言頼めるなら言うとってくれへんかな。ええ加減無視するのやめたってくださいって」
「キョー」
 俺が軽く流してしまったことが不満らしい。近頃一生懸命、俺の名前を言おうとしていた一織が久々に短く言いやすいあだ名を呼んできた。まるで、気にしてくれてもいいだろうと主張されたようである。
「嫉妬させたいいうてもなぁ。そういうのは好きやと思うとって成立するもんやん?」
「……十織とかか」
「そやな」
 一織が逆に嫉妬をし始めたため、俺はことさら軽く答えた。そして成金と一織を置いていくようにして止めていた足を動かし始める。
 確かに一織のいうとおり、十織のことは好きだ。同じことを他人に言われれば驚いただろうし、本人に色々と聞いただろうと思う。
 ただ、嫉妬はしない。それがお門違いだからなのか、驚きのあまり忘れてしまうのか、心的な距離感の問題なのかはわからない。
 立ち止まったままついてこない一織を置いて、食堂へと入り、誰かに対する曖昧さより明確なことを見つけ、鼻で笑う。
「ちぃーとも揺るがへんとか」
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