交流会という名の殴り合い


 西日というやつはどうしてこうも眩しいのだろう。
 わずかなオレンジ色の太陽光を浴び、廃墟の中、目を細める。
 夕方から行われている交流会の本戦第一回目のフィールドは、半分ばかり廃墟に占拠された町だ。オレンジ色の光のせいか、もの寂しく見える光景にアヤトリや早撃ちまでも目を細めた。建物の隙間という隙間に差し込む寂しい西日の中、猟奇に残ってもらい、俺たちは廃墟に潜む。
「暗殺者はどうすんだ? 魔法が届かねェだろ?」
「先にお願いしておいた。遊撃をしてくれている」
 猟奇が地面に式を描きながら笑った。
「絶大の信頼だなァ?」
 俺はその一言に食堂のことを思い出し、ため息をつく。
 あの時、まったく俺は揺るがなかった。一織のことを他人にいわれようと一織という人間を怪しむこともなく、逆に他人にマイナスな感情を思っていたのだ。
 親しい友人と赤の他人なのだから、そんなものといえばそんなものである。しかし、珍しいことでもあった。
「あれだけ戦えばな」
「それだけ?」
 何年も相棒といい、学園で一緒に居ただけある。
 猟奇は俺を疑いながらも、他の連中と連絡をとるための魔術と魔術を察知されないための結界、両方を混ぜた魔術式を完成させ、もう一つ防御結界をはった。
「どう思う?」
 俺は視界を魔法で増やし、気配を数え、他の連中の様子を見る。
 暗殺者は最初から追いかけていないと相変わらず何処に居るかもわからないくらいだ。ちゃんと最初から追いかけておいたので、今は元は民家だったのではないかと思われるものの影に隠れているのがわかる。
 他の連中は二人ずつ各所に散らばって、ある組は待機、ある組は魔機の連中の元へと走っていた。
 今回、暗殺者以外は二人ずつに分かれてもらっている。コンビである連中はそのままに、コンビのいない連中はそれぞれバランスをみて組んでもらったのだ。コンビも三組ほどいたし、俺の行き当たりばったりな指示でも二人ならうまく対応してくれるだろうと思ったからである。
「どうって、お前さァー」
 猟奇がいつもの棒にもたれかかり、だるそうに通信回線を開いていく。最初に繋がったのは今回の交流会で集まったメンバーの中で一番力が強い焔術師だ。
 猟奇は通信の具合だけ確かめて、一度魔術の回線を閉じる。
「一番になれねェ奴が好きだろ」
「そういうふうに見えるか?」
「見えるかじゃねェって、そうなんだって」
 猟奇は次から次へと魔術の回線を繋げては閉じた。繋がった場所に俺たちの声が聞こえるようなへまを猟奇がしないと知っているため、俺は遠慮なく会話を続ける。
「俺にしたってそうじゃねェか。俺の最優先でもなければ、一番でもねェだろ。両者が切っていける、納得できる、だから誘ったんだろ」
 俺の用意した視界は、まだ西日が元気に廃墟を照らしており、濃い影に潜む味方と敵がわかりづらい。気配の方はわかりにくいものもいるものの、暗殺者ほどわからない奴も居なかったため、なんとか把握している。現在、交戦している人間は誰一人居なかった。
 俺たちは誰かが何か始めるまで、準備をしながら口を開き続ける。
「ああ、まぁ……」
「歯切れ悪ィ。たいそう嬉しそうな顔で誘っておいて」
 猟奇は誘ったときは苛立っていたというのに、現在は楽しそうですらある。俺がからかえるからか、もう既に誘いをどうするか決めているか。そのどちらでもある気がした。
「お前がいるといないとじゃ違うからな」
「へェ?」
 ニヤニヤと笑うばかりの猟奇を一瞥した後、交戦に入りそうなコンビを見つけ、会話を終わらせるべく曖昧な本音を少し漏らす。
「まぁ……信頼してる。でも違いはわからない」
「ショージキッ」
 俺の様子が変わったことを察知した猟奇は、ハハッと切れのいい笑い声を残し一気に魔術の回線を繋げた。
 俺はもう一言、回線には聞こえないように呟く。
「わかりたくない」
 猟奇の口がぐにゃりと歪んだ。
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