俺は盛大にため息をつきたい気分になりつつ、今は交戦に入りそうなコンビに意識を向ける。
交戦に入りそうなのは静聴だ。魔術師と法術師の遠距離コンビのくせに、血気盛んな後輩たちである。
二人が交戦しようとしているのは、魔機の三人だ。俺の顔見知りではなく、会議室できいた話によると二人は魔術師、あとの一人は剣士である。魔術師の二人は聞いたことがないが、剣士のことはあまり魔機の学園に居なかった俺も、三年間魔機に居た暗殺者も知っていた。それほど、その剣士がすごい存在だからだ。
「静聴の二人、仕掛けるなら剣士は放置。できるだけ自分たちの得意分野でかき回してくれ。剣士の方は、一年生の近距離コンビ頼む」
今回、暗殺者を除く12人にコンビになってもらっていた。そのうちの三組、俺と猟奇、静寂と聴音、まだ名前がない一年生二人組は普段からコンビである。俺と猟奇は狙撃手と近距離魔術師で、聴音と静寂は魔術師と法術師の遠距離コンビ、一年生二人組は片手剣使いと魔法武器使いの近距離型コンビだ。
この一年生二人組は名前がまだついていないが、堅いことで有名で、一人は剣と盾を使い、もう一人は二振りの魔法剣を使う。二人はどちらも守りが堅く、一気に叩くよりも相手を疲弊させるほうが得意だ。
一方、今交戦しようとしている魔機の三人のうち二人は魔術師で先日は水と氷を使っていたそうだ。相乗効果で非常に寒かったと暗殺者がぼやいていた。この二人を叩くには、焔術師あたりが有効だ。魔術都市でもエリート扱いを受けている焔術師は、その名に恥じぬ火の使い手で、文化祭でも森の一部を焦土にしている。おかげで生徒会長であるにも関わらず教師陣に怒られたそうだ。
だが、そんな焔術師は細かいことが得意ではない。遠くに叩き落とすだとか、広範囲を燃やし尽くすだとか、そういった魔術は得意であるのだが、魔術の展開速度が遅いのである。魔術の規模からいうと随分速い展開なのだが、一瞬で勝負が分かれるという魔法合戦には不向きだ。
それならば、魔術を展開される前に邪魔をするか、魔術展開速度などものともしない人間に戦わせたほうがいい。
これができるのは、静聴の二人か早撃ちとアヤトリの風紀委員会二人組か、猟奇や暗殺者だ。
今、早撃ちとアヤトリは別の連中を襲撃しようとしているため、魔機の魔術師二人の近くにはいない。猟奇も違う連中を警戒してもらっている。つまり使えるのは静聴の二人と暗殺者だ。
暗殺者は自由に連絡ができないため、本人の意思に任せている。しかし、暗殺者のことだ、不運な感じで厄介なところに出くわしつつも、難なくいなしてくれるに違いない。
だから、魔術師二人に仕掛けるのは静聴の二人で正解だ。
『わかりました』
『ウィース、了解ーッス』
俺の指示に静聴の二人の返事が魔法で伝わってくる。
『わわ、わ、わかりま、した……!』
『わかったぜ、アニキ!』
緊張のあまりどもってしまっている片手剣使いと、何故か二年生全般をキラキラと輝く目で見つめてくる魔法武器使いからも返事があった。この二人は剣士に対応してもらうのだが、この二人の役割は時間稼ぎである。
魔機の剣士は、俺が魔機の学園に居た頃から有名で、歩く広域魔法と呼ばれていた。魔法は肉体強化系しか使わないが、一人で何人も何人もなぎ倒すためそう呼ばれている。使うのは剣というには雑なつくりの厚みのある、重さを重視した剣で、叩き切るという言葉がよく似あう戦い方をしていた。もちろん、それだけでは何人も倒すことなどできようはずがない。彼は、こちらの一年生二人組同様に堅くもあるのだ。
一瞬で勝負はつけられない。しかし、うまく敵からの攻撃を防ぎ叩き切ることができるというわけだ。だからこそ、広域魔法と呼ばれるのだろう。発動すれば一瞬で終わる広域魔法は、長い時間を経て発動するからだ。結果を見れば、同じくらい時間がかかるけれど、たくさん倒せるというわけである。
この剣士を倒したいのならば魔法をぶつけるのはいい手だ。しかし、それは剣士の側に魔術師がいないのならば、である。魔術師に魔法を防がれてしまうと、どうにもならない。
だからこそ、ここに俺はいる。