こちらの本戦メンバーは十三人、あちらもやってきたのは十三人だ。あちらは現在、二人減ってあと十一人になっていた。
 俺は他の場所に目を向ける。
 他の連中に襲撃をかけようとしていたアヤトリと早撃ちは、俺たちが一年生たちの戦闘に加わっている間に、戦闘を開始していた。
 俺が二人に指示するまでもなく、風紀の二人のコンビネーションは素晴らしい。俺が離脱させて欲しいとお願いしていた二人を圧倒していた。だが、あの二人ならば、これほど時間のかかる相手ではない。
「……アヤトリもしかして、やる気ないか?」
 俺が呟くと、猟奇がこちらを振り返り、舌打ちした。
「悪い駄犬には、お預けが必要じゃねェのォ?」
 魔法の回線が繋がったままの状態で落とされた呟きは、きちんと猟奇の駄犬にも届く。返事はないが急にアヤトリの動きがよくなった。
「アーイボーウ、駄犬のは切るぞ。いい子はできるはずだからァ」
 そして宣言どおり、猟奇は回線を切る。飴より鞭が多い猟奇のおかげで、俺の見ている風紀コンビ……主にアヤトリは一瞬にして勝負をつけた。これで魔機の連中はあと九人だ。
 俺は風紀二人を覗き見るのをすぐ止め、猟奇にだけ聞こえるように声をひそめる。
「さっきから他にも聞こえてるんだが」
「いいじゃねェか、見せつけてンだよ」
 どうして俺の周りはこんな人間ばかりなのだろう。もう少し慎ましやかにしていてもいいのではないだろうか。そう思いながらも俺は他の連中を見ることによって、気分を変えることにした。
 現在、目立って動いている気配の塊は五つだ。そのうちの三つは此方で、二つは魔機である。
 動いているが気配のわからない暗殺者は移動のついでにあちらの狙撃手をこっそり後ろから離脱させた。目撃した俺がゾッとさせられる。俺も狙撃手であるだけに余計に寒気が止まらないものだ。俺の魔法が見えているのか、感じているのか、こちらを向いて暗殺者がニヤリと笑うものだから、俺は思わず別の視点に集中する。
 その視点では人形使いがその場でゴーレムを生成する傍ら、一年生のマスターが周りを警戒してくれていた。気配を追うと魔機の動いている気配はそちらへと向かおうとしている。
「マスター警戒。そちらに二人……おそらく、魔法石を使う二人組みだ」
『なるほど、わかりもうした。人形使い殿はもう少しとのこと。防戦でよろしいだろうか?』
「お願いする」
 この一年生のマスターと呼ばれる男は珍しい術を使う。
 マスターというのは忍術マスターという異名の一部だ。最初は忍術マスターと呼ばれていたが、マスターは何でも一つのことを極めることに固執するタイプらしい。忍術をどこかで体得したあと、学園で更に忍術を極めるためにやってきたともっぱらの噂だ。こーくんの親友であるみーさんに動きが似ているため、同じところで学んだのではないかと俺は睨んでいる。
 それはさておくとしても、さすが一年生の名前持ちだ。わざと俺がわかるように気配をみせてくれている。マスターは俺が気配と複数の視点で味方を把握しているのを理解してそうしてくれていた。他はいうまでもなくわかるので、特にいうことがなかったのだが、マスターはちゃんと配慮してくれたらしい。その上、その気配が絶妙に俺にはわかるけれど猟奇にはわからないという出し方で、巧みすぎる。今回は安心して人形使いを任せられるというものだ。
 俺はそのあと、焔術師のほうへと視点を変えた。武器科の二年が焔術師の守りとしてついてくれているのだが、焔術師にはそれが必要ないらしい。大掛かりな魔術式を展開させ、焔術師と武器科の二年の周りをくるりと炎で巻いている。焔術師には生徒議会議長とその他二人が居る場所を狙ってもらうことになっていた。あちらの準備が整い次第こちらに合図が送られるはずだ。
 俺はそうして一通り味方の様子を見たあと、俺と猟奇に迫ってくる気配二つのために、ライカとフレドを手に持った。
「そろそろ来るぞ」
「相棒ったら、モッテモテェ」
 できたら襲い掛かってくるような人間にはもてたくないものである。俺はそう思いながらも、笑ってみせた。
「羨ましいか」
「ゼンゼン」
「だろうな」
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