うそつきにつぐ


 風呂場から出ると同時に、携帯端末に二回目の本戦と今回の戦闘についての連絡があった。二回目の本戦は明日の昼間に行われるそうで、朝に情報の交換と二回目の本戦にむけての作戦会議をするとのことだ。今回は相手側全員離脱で、こちらの勝利だということもついでのように記載されていた。
 そんなわけで暇になってしまった俺は、ぼんやりと本日のトピックスを眺める。今回の戦闘は早くも本日のトピックスとして流されていた。
「やっぱ、簡単すぎやんなぁ」
 何度見ても、今回の戦闘は簡単すぎる。こちらの作戦が素晴らしすぎてそう見えるというわけでない。あちらが代表であるというのに弱すぎるのだ。
「もっとおるやろ。離れられんちゅうのがおったとしても」
 生徒議会議長などは金持ち相手のご機嫌取りだとしても、他が弱すぎる。俺たちが強すぎるというわけではない。確かにあちらよりは幾分つよいだろう。しかし、あちらには同程度、または俺たち以上に強い人間も居る。
 魔機の学園のおかしなところは、こちらにあちらが弱いと思わせるだけではない。本当に弱いものばかりをこちらによこしたわけでもないところがあるのだ。都市からすれば、さして重要ではない人間ばかりさしむけてくるのは、都市のルールから当然のことであるが、その中に必要そうな人間が二人も混ざっているのである。
「それとも俺の知らん間に、あの二人も有名人とちゃうようになってもうたとか」
 俺は首をひねったあと、携帯端末を手に取り、良平に連絡をとった。
 良平にこのもやもやした気分をぶつけようと思ったのだ。
 良平からの返事は『下』とのことだった。良平はどうやら、寮の食堂に居るようである。今回は良平に働いてもらったので、甘ったるいデザートでも食べているのだろう。
 俺は携帯端末をポケットの一つにいれると、部屋を出た。
 寮は円形の建物だ。各階の真ん中に小さな広場のようなものがありそこを中心にしてどこかの部屋に続く廊下がある。部屋に行くまでもないとき、また一緒に寮の食堂に行きたいときなどは、生徒たちはそこに集まることがあった。
 普通の階段は三つで、それぞれ、寮の食堂に近い階段、寮の出口に近い階段、屋上に続く階段だ。それが、東西南に位置していた。四方で残るひとつは搬入用のエレベーターが存在しているが、あまり使われることがなくだいたい電源が切られている。実は、中心に存在している広場のようなものも、転移魔法の実験に使われていて、魔法でエレベーターのようなものが作りたいのだそうだ。だが今のところは成功していない。
 俺の部屋は食堂に一番近い階段が、その広場を挟んで反対側にある。俺は部屋から食堂に行くとき、大概、自分の部屋から広場を通って食堂に一番近い階段を使う。
 俺が同じことを繰り返すため、だいたいその広場を通っているときに、友人、知人に捕まる。たまに厄介なことがあるので、嫌な予感がしたときは、だいたい違う道を通るのだが、それでも厄介ごとはだいたい俺を捕まえてくれた。
 今日は特に嫌な予感もなく、やはりいつものように広場を通る。人はまばらだが、交流会のせいか今日は少しだけ騒がしい。
 俺はなんとなく広場を見渡して、首を傾げ、見つけてしまった一織に近寄る。
「おひぃさんどないしたん?」
「……最愛の友人に会うのに理由がいるのか?」
 一瞬こちらをみて、つまったことと、足が少し重たそうに見えること意外は普通だ。
 俺が広場を見渡し、見つけた一織は、いつもの颯爽さをなくし、ぼんやりと歩いていた。そんなこともあるだろうと思いたいものだが、どうも一織の足が重そうに見えて仕方ない。
「会いにきとるん?」
「……珍しいな、普段はそのあたり、追及しねぇだろ」
 その通りだ。まず、すれ違ってもいないし、気付かれてもいないのに、少しだけ、本当に少し普段と様子が違うというだけで友人にどうしたとは聞かない。聞いたとしても、体調を聞く。
 俺は良平にいわれたことを思い出しながらも、首をもう一度傾げた。
「そやろか? そんな人でなしみたいに、いややわー心外やわー」
 内心、一織のことを気にしてしまっていることに、ため息をつく。少し前に一織についていわれたせいだと思いたい。
「そうだな、お前は、面倒くさいタイプの人間だな」
 心底呆れたようにこちらを見てから、眉間に皺を寄せ、一織は手を振り俺とは違う階段を目指して歩き出した。
「ほんま心外やわー」
 珍しく真直ぐ部屋へ戻ろうとしている一織の背中を見つめ、俺は目を細める。
 やはり、いつもと違うような気がした。
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