色々ともやもやしながら食堂に行くと、そこにはもやもやが吹っ飛ぶような光景が広がっていた。
青磁が良平にくっついて離れず、良平に険しい顔をされ、その前には席に座りもしないで、ナンパするように良平に話しかける沙倉と三明がいたのだ。その四人を避けるように食堂に居る人間が散らばってはいるものの、沙倉と三明という魔機の人間がいるため、聞き耳をたてているようだ。たまにひそひそと話される内容が四人の様子についてであるから、そうなのだろう。
そのひそひそと話される四人の様子をまとめてみると、俺が最初に思ったように良平はナンパをされているらしい。ちょっとここで一緒に食事でもという内容ではなく、ちょっと魔機にこないかという内容である。
おかげで、めったにこんな場所でひっついて離れないという愚をおかさない青磁が、しがみついていた。青磁が他人の言葉くらいでは動かないので、おそらく良平が何かいったのだろうことも推測できる。
俺は良平にもやもやをぶつけにきたのだが、それ以上にもやもやしそうなことが起きそうで、その光景を見た瞬間に回れ右をした。
しかし、良平はこんなときに限って俺を素早く見つけるのである。
不意に後ろから頭に何かがぶつかり振り返ると、良平がうっすらと笑っていた。
俺はそれでも無視をしようと、頭をなでつつ、何もなかったかのように食堂の出口へ向かって歩こうとする。
「叶丞、ちょっと来い」
良平が口を開いたことにより、食堂が静まりかえった。やはり食堂の連中は良平たちの様子を探っていたらしい。それもそうだ。魔機の連中がいるだけでも珍しいというのに、生徒に人気がある風紀委員長がしがみついて離れない人間に興味を持たないでいるほうが難しい。
その良平の声を聞こえなかったふりをするには、食堂が静か過ぎた。
俺は仕方なく振り返る。
「なんですか、良平さん」
まるでそんなに親しくない人間のように振舞おうとするも、良平の薄ら笑いが怖すぎて、俺は少し急ぎ気味で良平のいる席へとやってきた。さり気なく散らばっている連中が俺を避けてくれるので、とても早くそこにたどり着く。
「なぁ、相棒。今、そこな魔機の奴らに誘われたんだが」
あくまで親しい態度を崩さないあたりが、良平の意地悪さである。俺はそれだけでよそよそしくしたところで、無駄だと察した。
「へぇ」
黙ってじっとりこちらを見つめてくる魔機の友人たちを見ないように良平を見つめる。すると見つめすぎたのか青磁が威嚇するように俺を睨みつけてくれた。
「魔機に転入しないかとの話なんだが」
「ああ、はぁ……」
気のない返事が零れていく。
俺も交流会の前に魔法機械都市に来ないかとお誘いをしたばかりだ。良平が魔法機械都市に行くというのなら、願ってもない話である。しかもこの二人が誘ってくれることで、良平の魔法機械都市での行き先の選択権が増えることになるのだ。
しかも、どこかに所属する前に、学園に転入するため良平は卒業後魔法機械都市のどこかに就職という形になる。そうなれば良平にはもっと選択肢が増えるだろう。
「それはよろしい話やなぁ」
俺がポツリと呟くと、青磁が更にこちらを睨みつけてきた。
「そう、だから、受けようかとおもってだな」
青磁が俺を睨みつけるのはやめて、良平との隙間をなくすようにさらに身体を密着させる。普段ならついていくというだけで、特に問題にもしないはずだ。もしかしたら、良平に釘でも刺されてしまったのだろうか。
「……それにしても即断すぎひんか」
青磁のことは哀れだと思うものの、いつものことだ。それよりも、良平の速すぎる決断に俺は首を傾げた。
「いや、そうでもない。お前には打診されていたし」
確かに俺は打診していたし、良平はその答えを先延ばしにしている。これが答えだというのなら、いいほうに転がったといってもいい。
「ほな、あと一年くらい俺の相棒はどないすんねん」
しかし、俺にもいいたいことがある。一応この学園で高等部を卒業したい俺は、良平がいなくなったら相棒がいなくなってしまう。空席にしておけばいいことなのだが、それはそれでつまらない。
「熱烈に希望してる奴がいるだろ。そっちは受けないみたいだし」
「いや熱烈……ん? ちょい待て。受けんっちゅうのは?」
「誘われてたぞ、一織」
俺は黙って俺たちの様子を見ている、三明と沙倉に顔を向ける。三明はまだ怒っているようで俺から視線を外し、沙倉は苦笑して頷いてくれた。
「なんでや」
「俺にはわかんねーけど。特に何か理由をいってたわけでもねーのに、断ってたけど」
俺に声をかけられたとき、声を詰まらせた一織を思い出す。何故言葉に詰まったのか、何故もっと上の階に部屋があるのに俺の部屋のあるフロアなどという中途半端なところを通ったのか。
俺は顔を片手で覆い、しばらく唸った後、回れ右をした。
「何しに行くんだ?」
楽しそうな良平の声には答えないで、俺は三明と沙倉をもう一度見て、宣言する。
「ほんま、すまんかったし、ちゃんと謝りにいくさかい、後でおうたってや」
急ぎすぎて、椅子に足を引っ掛けて転けそうになりつつも、俺は上を目指し、駆け出した。