朝の会議は一年が楽勝ムードの中、二年が渋い顔をしていた。優秀な一年とは違い、不作の二年は学園での待遇が酷い。今回のことを、魔機が簡単だというより、学園にしては簡単すぎると思ったようだ。それでも魔機側に勝つための案を出しあい、難なくまとまったあと、解散となった。
会議は朝のうちに終わってしまい、昼までは授業を受けるなり、休むなり自由にしていいらしい。俺はこれ幸いと、何か聞きたげな十織やにやける良平の目から逃げるべく、授業も受けずに空き教室に隠れていた。
しかし、こういうときも、良平は目ざとい。
「あれからどうなった?」
椅子を並べて横になり、日向ぼっこをしながら携帯端末を眺めていた俺に、転移魔法まで使って尋ねてきた。
急な頭痛と良平の声に、俺は携帯端末に開いていたページを消す。
「別に、なぁんも」
「そうは言ってもわかりたくねーんだろ?」
西日にさされながらしゃべり過ぎたらしい。良平は近くの椅子に座り、俺と同じように携帯端末を出す。代わりに俺はまるで良平の相手をするために、携帯端末から離れたようにみせかけ、携帯端末をポケットにいれた。
「良平こそ、わかっとるんちゃうか」
「おまえが一織追いかけたのは、俺じゃなくてもわかるだろーが。で、そのあとだ」
からかわれるとわかっていて誤魔化しもしないような人間なら、俺は反則だのこずるいだのと呼ばれていないはずだ。
俺はわざと首を傾げ、わからない風を装う。
「慰めたっただけやで」
「ふーん……で?」
だが、良平や会長から逃げたのは良くなかった。慰めにいったという事実を話しても、さらなる詳細を求められる。
「おひぃさん、ちょいとへこんどったわぁ」
「そっかー……で、おまえは?」
あくまで俺の甘酸っぱい何かしらを引き出したいらしい。こうなるともう一人の当事者である一織が会議で俺にまったく目を合わせないのも良くなかったと思える。
いつもなら、目が合うとなんらかの反応があるのだ。今日に限っていえば、俺がどれだけじっとり見つめても、こちらに目を向けようとしなかった。だいたい、じっとり一織を見つめている俺というのもやらかしてしまった感じがある。
朝の会議は、会議内容より俺や一織が酷かったといってもいいだろう。
「柄にもないことしてもて、めっちゃ照れ臭いっちゅうか、今朝とかおひぃさんが俺のこと無視するさかい、わざと見たった」
実は、朝の挨拶もかえってこなかった。一織こそ照れ臭いのかもしれない。俺が挨拶をすると目を彷徨わせ、聞こえないふりをした。
普段の態度からすると、明らかな動揺である。こちらが申し訳ない気分だ。
「お前は思う通りの根性悪だよなぁ」
「思う通りちゅうのはなんや、ちょっぴり男前かもしらんが見た目はただの軽いお兄ちゃんやないけ」
俺の調子に乗せたことばは、良平に鼻で笑われる。俺がいわれても鼻で笑ってしまうので、これは正しい反応だろう。
「ちょっぴりも男前じゃねーから、安心しろ。で、反則とかいわれるやつが軽いだけか? チャラい兄ちゃんたちに今すぐ謝れよ」
「何いうとるんや、佐々良もこーくんもめっちゃ軽いし」
佐々良もこーくんも俺と違って、正真正銘かっこいいといわれる類の容姿であるが、軽いといわれる類であるのは俺と同じだ。
俺は並べていた椅子の先頭から二つ目に座り、同意を求めるために頭を傾げた。
俺が思う以上に可愛くない仕草だったようで、良平が朝の会議よりも渋い顔をする。
「比較対象がわりーだろ。まず、お前、顔で負けてるのを体感できねーの?」
見てわかるどころか身体で感じねばならないことなのだろうか。相方が酷いことをいうので、俺の心は裂傷を負った。しかし立ち直れないかもしれないと相方の興味を別に向けるチャンスも得ている。
「心折れるわー……俺にはあの二人にはない美しいココロがやな……」
「人で遊ぶってことはあんまねーだろうけど、お前のココロとやらが美しいとは思えねーわ。強いて言うなら、迷路に入る際にロープをもって入ったら、最後尾のお前が途中で切ってどこか行くくらい、薄汚ねーと思ってるわ」
「それ、薄汚いどころの話やない。炭くらい黒いわ」
相方の容赦のなさに、心が本当に折れそうだ。俺はあー……と力ない声をだし、再び並べてある椅子に上半身を横たえる。日差しのおかげで、椅子は暖かかった。
「だいたい、昨日の話をしているのに、話を別に振って知らんぷりしてんだぞ。そんな男のどこにウツクシサを感じればいいのか、教えてくんねーか」
どうして相方は話を元に戻してくれるのだろう。こういうときくらい突発的に記憶喪失になってもいいのではないだろうか。それこそ、うっかり忘れてくれたっていい。