「……良平さんの予想としては、どんなかんじなん?」
また適当に誤魔化すためにも、話をかき回す必要がある。良平に尋ねたのはそのきっかけを、良平のことばから得るためだ。
良平は携帯端末のいじりながら、鼻で笑った。俺のしたいことがわかっているらしい。けれど、良平は口を開く。
「一織があの調子じゃ、お前と悪いことはなかったんだろ。慰めたってのも嘘じゃねーな。たぶん、おまえだけが変化するようなことがあった。もしくは、一織も変化したけど、あれだ。もっといれあげたってとこか」
さすが相方だ。俺が誤魔化したところを当てにきている。一織はどうかわからないが、俺には確かに変化があった。
しかし、そんなことはおくびにも出さず、俺はへらへら笑ってみせる。
「いれあげたって、そんなええ男やけども」
「あー残念残念。いい男過ぎて困ったなー」
まったく残念だとおもっていないのだろう。声に感情が篭もっていない上に、音に抑揚すらなかった。やはり俺は色々身体で感じなければならないらしい。顔には出さないが、気分の落ちる話である。
良平はそんな俺を知ってか知らずか、視線を手元に落とした。携帯端末の画面を見るためだ。あまりいいことは表示されていなかったようで、そこを見るなり良平は眉間に力を入れた。
「まぁ、誤魔化されておいてやる」
携帯端末に表示されている内容が良平の気分を変えてくれたようである。はぐらかす俺に聞きたいことを問うのは骨の折れる作業だというのもあるかもしれない。
「けど、そんなんで、俺が魔機に行ったらどうする気だよ」
良平は俺と同じように携帯端末を片付けると、座っている椅子をずらす。教室内に差し込む陽の光は、俺と良平が話をしている間に移動していた。寒い時期である。影の中にいても凍えることはないが、できるだけ暖かい場所にいたいものだ。
「あーそれ、どうなったん? 受けるとかいうとったけど」
「二年いっぱいはこっちにいて、三年の半年いってくる。転入はなくて留学って形になった」
良平は椅子をずらすように簡単にいう。俺からの誘いに迷っていたこともあり、魔法機械都市に行くという選択肢は学園に残るという選択肢より大きかったのかもしれない。しかも留学ということは、期間が終われば戻ってくるのだ。試すにはちょうどいい。
「ほな、俺への返事はそのあとでええわ」
「考える時間がなげーな」
「自信っちゅうやつや」
寒ければ暖かいところへ行く。影に居るなら陽のあたる場所へ移動する。良平の名前が表に出るか否かも同じだ。だから良平はそうするだろうと確信を持っている。
しかし不安要素はあった。良平がどこに行ってもいい名声を半年間で得てしまうかもしれないこと、良平が青磁をとってしまうかもしれないことだ。
どこに行っても研究成果を奪われず、自分のものにできるほどの名声を得るのに、半年は短いほうである。得られない可能性は高い。
青磁のことは、青磁が良平と違う道を行く場合の問題だ。感情は理性を超えることが往々にしてある。欲求を越える感情が良平にあれば、青磁と一緒にいることを選ぶだろう。
しかし、青磁のことは問題がないはずだ。おそらく青磁が良平に着いて行くだろう。
「それほど、魔機はいいところだって?」
「悪くはないと思うとるよ。縛りは多いけど、こんな時代じゃ、遠くに何があるわけでもなし」
この学園から一歩外に出れば、荒廃した土地が広がり、その先には死んだ都市や国まである。
それがこの学園のまわりだけではなく、目立った都市や国以外のほとんどを占めているのだ。この大陸の半分が死んでしまっているといってもいい。
資源がないわけでもないし、文明が死んだわけでもないのに、何故か人が住める場所は決まっている。決まった場所以外に住まうことを恐れ、生理的に嫌がり、ずっと留まろうという気になれないのだ。神の怒り、呪いと呼ばれる現象である。
実際のところはどうなのかは、まだわかっていないらしい。それを研究する余裕があまりなかったというのもあるだろう。余裕がなかったのは世界が一度滅びているらしいからだ。これも本当にそうであるか、わからない。ただ、記録が抜けているところ、なくなっているところが随分あるのだそうだ。
そんなわからないことも多く、不安なところもたくさんある場所で、少々不自由をしても自らが居られる場所があるというのはありがたい。
その上、なかなか栄えている都市なのだからそれなりに楽しく、退屈もしないのだ。
「あの都市はなかなかおもろい」
「なるほど。魔術都市だとその感想は出ねーな。魔術師的には宝の山だが、遊ぶにはつまんねー都市だわ。すげー出て行く気になってきた。まぁ、魔機に行くとはかぎらねーけど」
「そう言えば、学園に残るっちゅう考え方もあったな」
そうして良平の出身地である魔術都市から出ることを前提に話していると、学園に残るという手もあったことを思い出した。
しかし、これは学園側に選ばれる形になるのだ。学園に残りたいという人間すべてが残れるわけではない上に、学園からもちかけられるのである。
「打診されてねーから、行って商業都市くらいだわ」
「それ、打診されてそうなん、追求くらいしか……ん?」
不意に、その追求がこの交流会の本戦に参加していないと思い当たる。交流会の実行委員だからと言ってしまえばそれまでかもしれない。しかし、何故、その実行委員が追求なのか。
「……良平、急やけどこの交流会の本戦に参加できそうやのに、しとらん奴ってどれくらいおる?」
「本当に急だな。結構いると思うぞ。学園で暇してる三年とか、二年でも双剣がいねーのはおかしいし、その追求もそうだな。チーム戦なら追求の頭は欲しいだろ? 俺たちの参加の仕方からしたら、追求が本戦メンバーに居てもおかしくねーし」
もしかしたら、今回の交流会は生徒の交流会ではなく、学園と魔法機械都市の交流会なのかもしれない。
こちらの本戦メンバーを思い浮かべ、俺は歯噛みした。
学園の手に入らない生徒と、必要ではないと思われているだろう生徒ばかりが名を連ねている。そう思ったからだ。