正直、俺も魔法機械都市ではよく見かける戦法を使っているため、人のことは言えない。そのうえ、有り余っているのがあちらのことならば、使い勝手が悪いはこちらのことである。こちらにとっても言われれば腹が立つことだ。特に気配を感じない後ろが怖い。
「ああ、余っているのはお前らか?」
反応した二人に追い打ちをかけると、その二人が俺にたどり着く前に幼馴染二人は動いた。
三明は先にだした火の玉をバズーカのような魔法機械で放ち、沙倉はその火力を上げる補助魔法を手を二回たたくことで発動させる。
三明は魔法機工士で、魔法を機械で放つため、術言や術式はあらかじめ用意ができているし、発動の条件もボタンを押すだけ、引き金をひくだけといったものだ。魔法石より簡単に魔法を放てる。
一方沙倉は俺が挑発している間に準備していたのだろう。魔術と違って法術は音やことばで術を紡ぐため、魔法には少々鈍感な俺には準備段階がわかりにくい。沙倉はそれを知っていて魔術ではなく法術を使ったようだ。
「展開」
俺はそこにもう三つ結界を張る。最初に出した結界と合わせて計四つの結界が俺を囲う。
相方猟奇お得意の多重結界だ。俺はこれを三日分の晩飯代と引き換えに魔法石に術式を入れてもらった。おかげで、パワーアップした火の玉は俺に届くことなどなかったが、明日から三日間が恐ろしい。相方の辞書に手加減ということばはない。きっと三食ともデザートを二つくらい頼んでくれるだろう。魔法石はこの術式を一回しか展開できないのだから、飯のこともありずいぶん高くついた。
火の玉が外側から二つ目の結界までを壊し、三つめにあたって広がる。広がった炎が視界を悪くする中、俺は三つの気配をあらかじめ敷いておいた結界の内側に捕らえた。
さすがに四人は無理かと判断し、俺は思い切り片足で地面を蹴り、イメージをする。
物の乗った盆を揺らすイメージだ。
「展開ッ」
すると、敷いていた結界は左右に大きく揺れた。
結界の上にいた俺を知らない二人と沙倉がまず砂に足を取られ、そのあと結界の揺れに体勢を崩す。
そこに狙い定めてナイフが三つ飛んできた。
それと同時に、俺はもう一度声を上げる。
「展開!」
俺の声に反応し、手の中にフレドが現れた。魔法石による召喚魔法だ。これほど近くにありながら召喚魔法を使うのは初めてであるが、できるということは知っていた。召喚魔法は遠ければ遠いほど力を消費するものだ。近い分にはなんの問題もないのである。
不安定な空中でホルスターから銃を抜くよりもあらかじめ用意しておいた石で召喚したほうが動作は少ない。その上、素早くホルスターから抜こうと焦って失敗する、あるいは次の動きに誤差が生じるということも少なくなるだろう。
俺はそれを選択したのだ。
俺がフレドを持った手から石だけを落としながら着地すると、俺の周りにあった結界はすべて消えていた。俺がそう仕組んだからに他ならないが、それほど魔法に条件をつけて使ったわけではない。
魔法を無効化する誰かさんが踏み込んできたからだ。
その誰かさんの投げたナイフは斧槍使いを離脱させ、刺突剣使いの体勢を崩した。体勢を崩した刺突剣使いは誰かさん……暗殺者の姿を目の端にでも捉えたのだろう。急いで石を取り出そうとした。
しかし、そこは俺とやたらと戦いたがる暗殺者である。なれた様子でナイフを投げ、刺突剣使いの邪魔をした。おそらく、すぐに暗殺者の短剣で離脱させられることだろう。
俺はその間に、ナイフからも暗殺者からも逃げおおせた沙倉に銃口を向ける。
魔法使いである沙倉はこの中で一番体勢が崩れていた。砂に足を取られ、揺れる地面に踏ん張ることもできず、沙倉は転んだのだ。それは暗殺者が予想した体勢ではなかったらしい。おかげで沙倉は暗殺者のナイフからも逃げられたわけである。
しかし、結界を張らせる前に弾を二、三発撃ち込めば沙倉も離脱である。状況の変化に目を白黒させている今ならば、あてるのは簡単だろう。
「ダメダメ、反則くぅん! そうはいかないもんねーッ」
だが唯一俺の罠から逃れた三明が、また魔法機械の引き金を引いた。三度目の火の玉は、しかし、再び俺が口を開くだけで防がれる。
「展開」
盾のような結界を展開させると同時に引き金をひく。
右と左で意識的に違う動作をするイメージだ。普段からライカとフレドを使っているだけあり、結界は右手に残った石でうまく展開してくれた。銃の狙いは甘いが、そう、沙倉にただ当てるだけなら簡単なのだ。
その攻撃が離脱するほどの致命傷と判断されるかどうかは、運に任せた。
俺は着地してすぐに横に飛び、違う角度から沙倉を見る。致命傷ではなかったらしい。まだ離脱の光に包まれていない沙倉は、学園のシステムが与える痛みに呻きながら魔術式を展開させようとした。
しかし、魔術式はその場に描かれたもののうまく展開できず光を放つばかりだ。その式は結界と攻撃、どちらを取るか迷った結果の中途半端な式だった。
「少し動揺しすぎだな」
もう一発、今度は狙い定めて沙倉に弾を当て、離脱させる。
「うっわ、まってまってまって、ま」
そのすぐあと、三明も離脱した。暗殺者の仕業である。