この学園にいると悩んでいる暇がない。
演習場の一つ、誰もがさっさと転送される中で俺は教師と向かい合っていた。
「あー……残されたわけ、わかるか?」
遠くから聞こえる生徒の声を聴きながら、俺は考える。まったく心当たりがない。あるとすれば交流会くらいである。
「……先日の交流会で何か……?」
「違うが」
的当ての授業が終わってすぐ、俺は三年の授業でお世話になっている教師に呼び止められた。
学園の教師は、教師という割に教えるということをあまりしない。大体は訓練メニューを組んで、生徒が羽目を外さないように見ているだけだ。
しかし、こうして声をかけることはよくある。的当ての的にするだとか、教材運べだとか、ちょっと一年をボコってこいだとか……とにかく、いいことがない。
「お前さんさぁ……ちょっと活躍しないか」
「なんでやねん」
素で突っ込んだあと、俺は目で教師に説明を求めた。教師は少し下がった眉を片方だけ上げて緩く笑う。
「うちの卒業試験がどんなかは知ってるだろ?」
「知りませんよ」
教師はぽかんとした顔をしたあと、首を傾げた。卒業試験がなんであるかを知らないのは驚くことらしい。俺はその反応にこそ驚きたいものだ。
「……まさか、入学式寝てたか?」
「入学式自体出てませんよ。途中編入ですから」
「あー……そんなこといってたなぁ……銃科の先生。それじゃあ知らないわな」
うんうんと頷く教師を見つめ、俺も同じように頷く。
「というわけで、お役御免と」
「そうはいかないからな。俺が説明すればいい話だ」
「ですよねー……」
教師はまた緩い笑みを浮かべた。とりあえず同調しておけば、話が流れるかもしれないと一緒に頷いたというのに、頷き損だ。
「卒業試験ってのは、まぁ。あれな。生徒凹ませる日」
「何が何だかわかりませんが、嫌な行事だなってのは解ります」
これもまた正直な感想を述べると、また教師はうんうんと頷いた。この三年のクラスでの俺の担任ともいうべき教師は、いつも適当だ。
「おー。俺もな、クソかよと思ってたんだけど、気が付きゃこうよ。生徒の心をくじく素晴らしい先生になっちゃった」
どうやら学園の出身であるらしい。生徒の時にクソだと思っていたのなら、少しは改善しようと思わないのだろうか。ひどい話である。
それで、その卒業試験というのは教師がいうにはこうだ。進級試験とは違っていて卒業試験は決まっており、毎年、生徒と教師の集団戦闘が行われる。学年が上がるにつれ生徒の数は減るが、それでも教師の方が数は少ない。いくら教師が強くとも、卒業者はそれなりに出るそうだ。
「けどなぁ……今年は最高の当たり年で、生徒の心を折れそうにないっていうんで、助っ人を用意することにしたわけだ」
「助っ人」
「そう、助っ人。で、わかるよな、助っ人」
肩をぽんとたたかれて、わからないといえたらどんなによかったか。いや、たとえわからなくとも、卒業試験に俺は参加させられるのだろうから、結果は同じである。
「それは、お断りしても?」
だが結果は同じでも、俺は渋りたい。卒業試験の助っ人など……しかも、活躍などしたくもないのだ。渋れば何が変わるわけでもないが、調子にのって他のことを頼まれるのは嫌である。一応嫌ですよという意思表示はしなければならない。
「これは、お前さんの進級試験だ」
「……最初から、そういってくださいませんかね」