石を一つ投げるより


「叶丞クン、副会長と付き合ってたって本当?」
 夕飯を食べる前に寮長室に呼び出され、俺は何度目かになる答えを口にのせた。
「あーほんとほんと、この前ようやく一線を越えてもてもー昼も夜もないくらい」
 人というのは答えるのも面倒になると、適当をいい始めるのかもしれない。目的である協奏が俺に一織との件を尋ねにきたとき、俺はすでに飽き飽きしていた。
「真面目に答えてくれるかな? こっちは寮内で騒ぐ連中に鉄拳制裁くわえないといけない立場なんだから」
 そう、だからこそ俺は騒ぎになるように一番食堂に人が多いだろう時間に、一織に告白したのだ。
 協奏は寮長だ。俺と一織のおかげで騒がしい生徒をなだめる必要がある。
 協奏にはそれで手間取ってもらいたいし、疲労を蓄えてもらいたいのだ。
「だいたいどうしてあんなところで……叶丞クンらしくない」
 こちらを見る目は、何かを疑うものである。俺らしいか否かより、俺が何かを企んでいると思い、俺の答えから情報を得ようと思っているのだろう。
「知ってもらう必要があったんですよね。こそこそしてる連中に」
 疑いのまなざしの中、俺は疲れたような表情を作った。
 あの告白から三日たった。俺は恋人と居る時以外忙しいときを過ごしている。
 それというのも、やたらと決闘を申し込まれたり、廊下で絡まれたり、呼び出しの手紙がきたり、通りすがりに襲われたりしているからだ。
 それは俺が反則狙撃だとかなりの人間が確信を持ってしまったこと、また、その俺が一織とお付き合いしているということに関係する。
 反則狙撃は反則だ卑怯だといわれ続け、憧れ半々恨まれ半々で見られている人気者だ。その人気者が映像だけでなく、変装という特別な状態でもなく存在しており、しかもそれが気軽に声をかけられる俺ということで、皆遠慮容赦一切なしなのだ。話しかけるのはもちろんのこと、憧れてたのにがっかりという連中の逆恨みのようなものとか、俺と戦闘して悔しい思いをした連中なども絡んでくるので協奏だけでなく俺まで疲れそうだった。
 さらに一織は暗殺者で、しかも反則狙撃である俺と付き合っているとなると、もう、一部では世界が終わったような騒ぎである。
 一織は変装前、変装後、ともに大人気で、がっかり反則狙撃である俺とは違い、ある意味期待通りだったといっていい。そのため、残念反則狙撃なんかと付き合っているだなんて……とすごく嫌がられていた。
 残念なのは俺ではなく、一織の趣味だろうと思いつつ、俺はその対処に追われている風を装っている。
「こそこそって、反則狙撃と叶丞クンが同一人物じゃないかって思って色々準備してた奴ら?」
 実は俺が反則狙撃だというのはずいぶん前から疑われていた。ちょっとした騒ぎや大きなイベントごとがあり、さらには暗殺者と思われる一織が脅しつけたりもしたものだから、なんとなくどっちなのかわからず、なぁなぁな雰囲気が流れていたのである。
 けれど、気づく奴はやはり気づくものだ。静かに静かにこれまでの恨みをぶつけてやろうと企んでいるようだった。
 しかし、いくら本人が静かにしていても俺にばれている。その程度でしかないのだ。俺も適当に流しておこうかなと思いこそすれ、何かするつもりもない。学園にいられる期間というやつがわからなかったから余計だ。
 だがここで、俺は良平を半年ほど待つことになった。そうなると早めに潰しておいたほうが、憂いも少なくていいかもしれない。
 そう思っている矢先に、この卒業試験の話が来たのである。
「そうです。どうせ三年になればバレることですし、二年も残すところあと少しなんで、早めに藪をつついておこうと思って」
 ちょうどよく藪はつつけ、協奏の邪魔はでき、さらに藪をつつくために利用した一織には嫌われるかもしれないし、利用する際恋人ごっこまで楽しめるのだ。不利益を考えればおつりが出る気もするが、一番の目的を果たすためのおまけとしては十分である。
 もちろん、俺のおまけと違い、協奏からしてみればとんだ迷惑だ。
 しかし、協奏はこれで俺が企んでいたことを理解したらしい。渋い顔をした後、おおきくため息をついた。
「あのねぇ、そういうの三年が卒業してからでいいでしょ?」
「追求が寮長になった後だと、俺に丸投げするにきまってるんで、先輩がいるうちがよかったんですよね」
「僕だって君に丸投げしたいんだけど?」
 俺はわざとへへへと笑い、揉み手を作る。
「そういわず」
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