渋い顔をして、協奏はわざとらしく大きなため息をついた。
「僕だって卒業試験があるんだけど? 知ってるよね? 入学式で映像見るもんね?」
「いえ、俺は途中編入なんで。映像ってなんですか?」
「あ、そうか、叶丞クン中等部からの途中編入だっけ。高等部の入学式は持ち上がり組関係ないもんねぇ……」
 そう、だから俺は卒業試験だけは毎年決まっているということを知らなかったのだ。けれど、今は教師に教えてもらい知っている。そのため、卒業試験を知らないとは言わなかった。ただ、本当に知らないことだけを尋ねたのだ。
「入学式に、卒業試験の映像を流すんだよね。卒業時にはこういった試験をしますよって。もちろん編集はされるんだけど。編集っていってもいいとこどりとか、変装後の姿でとかその程度のことなんだけどね。まぁ、つまり、いつものトピックスの卒業試験版だよ」
「ああ……いかにもやりそうですね……」
「そうなんだよ。でも、変装後にしてくれるだけありがたいよね。留年するやつもいるからね」
 この卒業試験は、協奏のいうとおり留年するやつもいる。それもあって、俺や一織はできるだけこの試験にかかわっているとバレたくなく、できることなら教師だけの味方をしたくないのだ。
「で、卒業試験があるわけだけど。知らないみたいだし説明すると、卒業試験ってなんかありとあらゆるところでばれないようにばれないように命を狙い狙われるみたいなものなんだよね。わかる?」
「わかりたくはないですが、いいたいことはわかりました」
「そう。頭の回転速いもんね。とにかく、明らかに疲弊するし面倒な試験があるから、こういう騒ぎはやめてもらいたいわけ」
 俺が協奏の立場でもそういっただろう。だが、その面倒ごとに加担している俺としては、やめてもらいたいと思ってもらわないと困る。
「いや、そうはいわれましても……もう始まってますし」
「そうだよねぇ……始まってるんだよねぇ……よりにもよってこんな時期に君の面倒ごとを片付けようなんて……やめてほしかったなぁ」
 やめてほしいと思われるほどの面倒ごとだと思われたい……俺と一織がこの卒業試験に加担していると思われないほどの騒ぎになりたかったので、これは嬉しい反応だ。
 俺が一織に公衆の面前で、あれほどわざとらしく告白した目的はそれだった。
 俺たちが動き回っていてもおかしくないと思わせること、俺たちが戦闘行為に準ずることをしていてもおかしくないと思わせること、騒ぎに乗じて三年生を罠にはめたり邪魔したりてしても騒ぎのせいだと思わせること……それが一番の目的だ。
 もちろん騒ぎになれば何でもよかったというわけではない。
 協奏だけではなく、当たり年といわれる三年生をそれなりにだますために、いくつも目的を用意しなければならなかった。
 それが、変装後の正体をばらすことや、一織に告白するということに繋がる。
「本当、僕らが卒業してからやってよ」
「それは……なんというか、申し訳なく……」
 協奏が理解してくれたのは、俺が三年生になってからばらしたら面倒だということのようだ。この騒ぎに乗じて俺がこそこそしている連中を排除しようと動いていることもわかってくれたようで、なによりである。
 まんまと引っかかってくれたようだ。
 だが、正直、協奏がどれに引っかかってくれてもかまわなかった。
 俺は協奏が俺の一番の目的を看破しても、一つ提案ができる。
 看破されたのなら、それは俺から提案するつもりだった。けれど、看破されなかった今、俺は協奏から提案されることを待っている。
「ですが、ぜったい今より苦労しますから」
「本当にもー……これは、高くつくよ?」
「……いや、まぁ……」
 いつも通り、曖昧に濁して笑っていると、協奏が嫌な笑みを浮かべた。これは俺の思う通りにしてくれるのか、それとも俺の考えを読んでのことなのか。わからなくて背中が寒い。
「そうだなぁ……君が襲われるのはもう仕方ない。だから、僕は君が襲われるのを利用させてもらうよ」
 俺は心底思った。
 よかった、と。
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