この変装魔法、そして、何をしてもフィールド上では傷がつかない結界魔法、その他色々魔法と機械によってつくられたものを、俺たちはシステムといった。
「偶然やろ」
良平のいう求愛というのは、そのシステムが起こす偶然であり、学園の残念な風習である。
「その偶然が起こるから、運命で求愛なんだろ」
焼き魚の塩加減はちょうどであるはずなのに、口に運ぶそれが塩辛い気がしてならない。それは、システムの起こす偶然を俺が起こしてしまったからだろうか。
俺は変装すると、反則狙撃と呼ばれるコーンロウとサングラスがクールな男になる。今は見渡せばその辺に何人かいる、軽い雰囲気がある武器科銃選択の一生徒だ。髪色も目の色も一般的な茶色で目立たない。けして高等部一年頃から目立ち始め、意味の解らない変装後人気ランキングにランクインするような人間には見えないだろう。
「ない、ないわぁ……」
そんな俺が運命を求めているかというと、そうではない。ある一人の生徒とはあってもいいなと思うのだが、残念ながら神に頼んでも有り得なかった。
「つっても消える前に見えてるしな」
変装前人気ランキングには入らないまでも、少し人気がある良平は、変装後は面を被りマジックサイスを振り回す猟奇的な人気者だ。そう、反則狙撃の相棒の猟奇である。
あの時一応、運命の瞬間が訪れた現場にいたはずだ。しかし、良平がいた場所は俺たちから遠すぎた。俺が奇跡を起こした瞬間は見えなかったようだ。
「トピックで見たら、見事に服に穴開いてんじゃん」
その変装後は人気者の俺たちは、昨日のコンビ戦闘で目立っていたらしい。何度も何度もトピックスで俺たちの姿が流される。それもそうだろう。戦闘相手となった近々の二人も、変装後ランキングに入っており、とても強いのだ。
この変装後人気ランキングに入るには、必ず強くて目立ち、しかもトピックスに何度も顔を出さねばならない。だから、このランクに入っているというだけで強いと言えた。
その強い者同士の戦いだ。注目しないほうがおかしい。そう言うように、昨晩からトピックスが本当に煩かった。
「もしかしたら、戦闘前から穴開いとったんかも知れんし」
「んなわけねーだろ、暗殺者が現れたときのアップの映像で、穴開いてねーもん」
「ほなら、どっかにひっかけたんかなー。暗殺者も意外とそそっかしいやっちゃ」
「んなわけねーよ。銃弾当たる直前の映像にも穴ねーもん」
何故、トピックスの映像はとても鮮明なのだろう。かなりのスピードで動き回っているにも関わらず、停止してもスローモーションにしてもなんとも美しい映像だった。それこそ、弾丸の衝撃によりシステムが服にあけた穴も鮮明に見える。
「なんで求愛ちゅう残念風習あんねやろ……」
「なかなか起こらねーからだろ」
鶏五目麺を早々に食べてしまった良平に、焼き魚の身を奪われつつ思う。
たかだかシステムの負荷で起こる現象に運命なんてあるわけがない。
求愛は、本来ならば傷一つ、服に穴一つあけないはずの結界魔法の欠陥だ。
システムにある程度の負荷がかかっている状態で攻撃がなされると、結界魔法がその攻撃を防ぎきれず対象者に傷を作る。負荷がそれほどかかることも珍しいことであるが、服に穴が開くのはかなり珍しい。
今頃、俺に心臓を撃ち抜かれた暗殺者の胸には見事な痣が出来ているだろう。
「しとうてしたんとちゃうし」
「したくてできるもんかよ、システムの負荷なんてもんが」
「できんことはない」
この求愛が起こった場合、大抵は痣となって身体に痕を残すため、しばらく、痕をつけられた人間を探すことが出来るのだ。もしも、それが気に入っている、気になっている、好きである人間ならば、探しだし告白すれば、必ず恋人になれるらしい。
このあたりが、求愛が騒がれる理由である。何故、顔を知りもしない人間が恋人になれるのか、俺にとって不可解なものだが、ロマンチックだといって何故だか人気のある風習だ。
「計画的にか? だから、反則って言われんだよ」
ようやく良平の魔の手を避けるために皿の中身を寄せて、魚の身を口に運ぶ。やはり、魚が塩辛い気がしてならない。
「なんもルールに反しとらんし」
良平が、今日、一番面白いことを聞いたといった様子で噴出した。
午後の授業で、このストレスを発散してやろう。俺は心に誓った。