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しかし、現実は非情だ。
「はーい、二八番くんは一年生の的ねー」
俺を待っていた教師が、笑顔で手に持ったボードから紙をとり、俺に渡した。
「何故……」
俺は失意のなか疑問をこぼす。
昼飯が終わってからの最初の授業は、銃を扱う生徒たちには的当てと呼ばれる授業である。動く的や固定された的がでてきて、制限された時間中ずっと的を撃ち続けるものだ。
授業に遅れた生徒は、たまにその的当ての的にされる。授業に遅れてきたことへのペナルティだ。
だから、こうして授業に遅れてしまった俺が的にされるのも仕方のないことである。そのペナルティに対して少し物言いたいことがあるとすれば、家族からの連絡で呼び出しを受けた生徒にもう少し配慮があったらいいなくらいだ。緊急連絡のふりをした私情連絡であったため、考慮の余地はないかもしれない。けれど、それは教師が知らないことである。
だが俺が今、何故か問いたいのはそれではない。
「何故って、遅れてきたよね」
「そこじゃないです。一年生のって所です」
普通ならば、一年生の的ではなく同じ授業に参加している二年生の的になる。
「そうなんだよぉ。一年生にっていうか、二年生の中でもすごい人たちに混じってかき回して来れるんだよ。やったね! 素敵! 先生も羨ましいっ! 幸運ってやつだね」
的当てをやっていない連中が、ざまぁみろと言って笑うようなことが果たして素敵で幸運なことなのだろうか。俺はむしろ、笑っている連中に混ざって知らん顔をしておきたい。
だが、授業に遅れてきたからにはペナルティは受けなければならないし、一度決まったことはなかなか覆らないものだ。教師も笑顔で俺を送り出そうとしている。
「……すごい人たちって誰ですか」
「あ、さすが、反則って言われるだけあって決断が早いね」
「それ、まったく反則関係ないと思いますけど」
教師がこうして通称で俺たちを呼ぶことはあまりない。変装しているときは大体番号で呼ぶ。教師が通称を使うときは、大抵、その教師の性格が悪いか、面倒なことを言い出す前触れか、精神的に揺さぶりをかけているときだ。
この教師の場合は、性格が悪いというやつである。
「それに決断ではなく、諦めです」
「あっは。でもそれって、理解だと思うけどね。……さて、二八番くん、すごい人たちについては、行ってからのお楽しみとして」
「ああ……結局答えてはくれないわけですね」
流される悲しみのあまり、渡された紙に視線を落とす。紙には転送指定場所が書かれていた。
「一生懸命かき回してっていうか、勝って来て。先生の給料半月分かかってるし。一年の担任共に舐められてクソがなめんなよ小僧どもって思ってるから、立ち直れなくて見るたびガタガタ震えるくらいけちょんけちょんにしてきて」
「それだけ腹立てても半月って辺りが、冷静ですね」
教師の言葉は重なるごとに過激になる。それというのも、俺たち二年生が舐められていることが原因だ。二年は、ハズレだとか狭間の世代だとか言われている。つまり、一年と三年は優秀で二年はいまいちなのだ。これは事実である。
この教師は性格が悪いといっても、まだ人はいいらしい。受け持っている生徒がなめられるのは事実であっても業腹であるようだ。
「そりゃあね。魔法使いさんたちとは給料違うし、研究費とかも出ないわけだから、自分の武器は自分の給料で管理しなきゃならないし、おまんまも食べられないじゃ、身体も維持できないし。ね?」
「ざっくばらんですね……」
あまりにあけっぴろな教師に、オブラートに包んだ一言を返すと、肩を叩かれた。
「まぁね。それで君が哀れに思って頑張ってくれないと、一年間くらい的にしちゃうくらいには俺、困っちゃうから」
いい人というのは勘違いだったんだろう。
そう思わざるを得ない。
俺は特になにも答えず指定場所に向かって歩き出した。
なんにせよ、今回はペナルティを食らっているのである。一年生の的にならなければならない。
ストレスは溜まる一方である。