「じゃあ、こうしよう。この授業は合わせて百八十分あるからそのうちの四分の一を反則くん一人で。四分の一過ぎたらせんせーたちが加勢しよう。半分過ぎて授業に参加してきたら暗殺くんも加勢だよ。交渉してできた味方は順次追加」
 協奏も教師が提案したその案に賛成らしい。大きく頷いて、教師のそばに立っている俺に目を向けた。
「反則くんだもの、できるよね?」
 はいできますと気持ちいい返事はできない。
 俺は協奏から目をそらしたが、教師も協奏もそれは俺がしなければならないことだと捉えているようだ。それ以上の確認はなかった。
「さて、いいようだし始めようか。まぁ、ちょっとおまけして五分ほど待つから、反則くん、走っていいよ」
 俺は少しの間サングラスの下に指を差し込み、目頭をもんだあと、ため息をつく。
 俺が教師陣に提案したのは、三年生と合同授業をすること、俺が的になること、教師陣も授業に参加すること、授業の中で二つほど三年生に仕掛けることだ。その的になるにあたりつけた条件は、遅刻で目立ち反感を買うことと協奏を引っ張り出すこと、協奏を無視すること、協力者を作れるようにすることである。
 これでいいはずだ。いいはずであるが、俺への条件がなんだか厳しい気がしてならない。
「……わかりました。走ります」
 けれど、そうしろといわれたらそうせざるを得ない。教師も協奏も俺に有無をいわせない笑顔で条件をごり押ししていた。ごり押された俺は、後で覚えていろと思う気力もない。
 そうして俺は走り出す。
 五分を全力疾走しても教師に言い渡された範囲を過ぎることはない。フィールドを把握するように視線をさまよわせ、ただひたすらまっすぐ走る。俺は三年を追い越し、岩が多い方のフィールドを走った。そちらの方が障害物が多くて隠れやすいからだ。
 ある程度走ると、俺は岩に隠れるようにして移動する。
 いつもとは違い、視点はまだ増やさず、走る速度を落とす。ホルスターにあるライカとフレドを触って確認し、辺りを見渡すと気配を隠していく。
 俺が気配を隠して気が付く連中は、二年では多くない。今回の授業に参加している二年では片手で収まってしまう。これに関しては、三年も少ない。二年よりは多いのだが、俺は気配を読むことに長けていることもあり、自分で隠すのもそれなりにうまくできるのだ。だからこの授業に参加している三年も俺を見つけられるのは片手で足りるくらいである。
 その二つを足すと両手に収まるほどだ。
 その中にそこそこ以上仲がいい人間が数人いる。
 今回合同授業をしている三年が、俺がよくお世話になっている三年であるからだ。三年にも二年にも敵を作っている俺ではあるが、味方もそれなりにいるのである。
 その気配が読める味方は二年では双剣、暗殺者、三年では重火器と必殺という先輩だ。猟奇も読めるが、相方であるにも関わらず味方だとはっきりといえないのはつらい話である。猟奇は条件次第で俺の敵にもなるからだ。
 俺は気配を動き出した気配を読みながらも、小さく呟く。
「まずは猟奇……」
 できるなら早々に味方は作りたい。特に俺をよく知る猟奇 は敵より味方に居てほしい。
 俺はリンクの魔法で猟奇に声をかける。
『突然やけど、味方になってくれへん?』
『わかっていると思うが、条件は?』
『学食あたりでどうやろか』
 今、俺が三年の卒業試験を手伝ってくれている良平には、いろいろと貸しができてしまっている。大体謝礼はあとでになってしまっているからだ。
 その中で比較的安く、はやくできる方法といえば学食でおごることである。
『今日から俺が魔機に行くまで』
『朝だけやったら……』
『却下。せめて昼』
 期間が長いため、金銭的に大変痛い。朝食だけならば量も少なく良心的だというのに、猟奇は良く食う昼を選ぶ。猟奇らしい選択だ。
『……半分の期間、デザート付き、夜とかは……?』
『……まぁ、良しとしてやる』
 同じくらい食う上に、デザートまでついてくる夜は期間が半分になったとはいえ安くはない。昼をずっとよりはマシであるが、朝をずっとより高いのだ。なかなかいい提案をしたが、大変財布が寂しくなる計算である。
『で、俺はどうするんだ?』
 だが、味方になってしまえば話は早い。猟奇は俺との付き合いが長いこともあるが、行動も速いのである。
『双剣と話すんにつきおうてもらえるやろか』
『通信魔法系使えってことか。あとは?』
『そやねぇ。魔法使うとき双剣の加勢をしてもらうことと、おひぃさんが来るまでは三年減らしの手伝いしといてっちゅうとこかなぁ……俺はおひぃさん来る前に、三年から引き抜きしとくさかい』
『了解。なら今から双剣とこいってくる』
 実にあっさり請け負ってくれた。夜、一体どんな夕食とデザートをおごることになるのか、考えたら恐ろしいことである。
 俺は首を振り、その晩飯を頭から追い出し気配を探す。俺の気配がわかるだろう先輩や同輩たち、味方になりそうな先輩方の気配だ。
 暗殺者ほど巧妙に隠れる人間は三年にもいない。俺はそれらすべてを確認してから、一つの気配に隠れながら近づく。
 それは必殺という先輩だ。
 必殺という先輩は俺が初めて三年の授業に参加した時罠にハメた先輩で、負けを認めたあとはあっさりとしたいい友人づきあいをしている。とがった瓦礫が刺さりそうになっての離脱だったというのに、実にいい先輩だ。
 この必殺という先輩は、決め技のようなものが派手であることから必殺と呼ばれている。その必殺技にはファンも多い。そのファンの一人が、実は双剣である。
 これは隠してもいないことなので、双剣の正体を知っている人間は皆知っていることだ。
 だから俺は、猟奇の次に必殺先輩を仲間にすることにした。
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