愉快な仲間たち


 学園の高等部三年生と一年生は優秀で、二年生は狭間の世代でたいしたことがない。
 これはまぎれもない事実だ。
 しかしそれでも二年生には有名人がいる。
 焔術師、双剣、追求、人形使い、アヤトリ、早撃ち、暗殺者、猟奇……そして反則狙撃だ。
 このうち、ひねった名前を付けられたのは俺と猟奇とアヤトリくらいである。
 そのため二年生はこういった名前においても不作といえた。
 その不作の一人である双剣は、その名の通り二つの剣を扱うから双剣と呼ばれている。そう、そのままなのだ。
『大体、おまえは名前からしておかしいっ』
 そのままの名前を付けられているから自分はおかしくないといわんばかりに双剣はいい放った。
 自分でつけたわけでなく、まして本名でもない。
 俺はそんなどうしようもないことを罵られながら結界を張った。
「いや、俺だけではないというか……」
 結界を張るとすぐ辺りにすさまじい音が轟く。
 俺は音もろとも攻撃を結界で防ぎつつ、歯切れの悪い反論をこぼした。
 こうして爆音だのバズーカだの対戦車砲だのを防いでどれくらいたっただろう。
 俺は少しむなしい気分で魔法石をだす。展開している結界に力を流し強化するためだ。
『狙撃はそのままだから良しとする。だが、おかしいだろ、その反則っていうやつは! 正しくその通りだけどな!』
 俺の気持ちや反論、現状など知ったことではないらしい。腹立たしげに双剣はことばをぶつけた。
 その罵り声は普段とは少し違って聞こえる。勢いがあるというだけではなく、魔法で遠くから拾っている音だからだ。
 その魔法は猟奇に頼んで、双剣とつないでもらった通信魔法である。
 そう、現在俺は猟奇に頼んでいた双剣との通信をしていた。双剣を仲間にするためだ。
 猟奇は俺の頼んだとおり双剣に加勢し、三年生と対峙しながら通信系の魔法を使ってくれたのである。
 そして、その魔法でつながるやいなや、双剣はこれまでの鬱憤を俺にぶつけた。よほど鬱憤がたまっていたらしく、十数分たち、俺が新たな仲間候補……重火器先輩と出会っても、俺に対する罵りはやまない。
「それいわれちゃうと俺ら、結構な率でおかしな名前なんだけどな」
 リンクの魔法と違い俺以外にも双剣の声は聞こえる。それを聞いた必殺先輩が俺の隣でぼやく。
 重火器先輩のせいで俺と必殺先輩は結界の中でおとなしくするしかない。おかげで先輩は俺と先輩の肩がぶつかりそうな距離にいた。そうすると先輩のつぶやきも魔法は拾う。
『三年生はのきなみおかしいですからっ』
 十数分の罵りは双剣から罵る材料と思考力を奪っていたらしい。双剣は憧れの必殺先輩にも正直なことばを投げつけた。
「素直だなぁ。だが、それ十点くらいの答えだぞ。反則、双剣は本当に俺のこと好きなのか?」
 先輩のご機嫌に響く点数である。
 もはや重火器ではなく火炎放射器であぶられ始めた結界から意識をそらさぬまま、俺は指で宙に長方形を描く。
「ペーパー試験だと思えば、あと六問くらいはあるつもりの答えなんじゃないですかね」
 先輩はその長方形の上を指さし、その指をクルクルと回す。
「問題少なくないか……配点高め?」
 先輩も俺も砲弾や炎を結界で防いでいるという危機的状況にある。けれどこうして呑気な話ができるのは、これらには限りがあるということを知っているからだ。
 なおも炎は結界を燃やしつくさんと絶えることなく結界にぶつかる。それが炎の寿命を短くしていた。焔術師ほどの力の持ち主ならば結界に放出する量さえ間違えなければこの授業が終わるまで炎は続くだろう。だがこの炎は魔法の力で燃えているわけではない。ガスが燃えているだけだ。出力も大きいので、そろそろ燃料が切れるはずである。
「いえ、何問か答えたうえでの十点です。あと六問といったところでしょうか」
 だから俺は双剣の罵り文句と重火器先輩の砲弾がきれるまでの間、呑気に必殺先輩とおしゃべりをしていたのだ。
「マジか……あとの六問の配点が高いことを祈るばかりだな」
 他人事のようにそういった先輩は、両手に剣を一つずつ持ち、にやりと笑う。炎の勢いがおとろえ、この結界から火炎放射器を持った重火器先輩が良く見えるようになったからだ。
 重火器先輩はガスマスクで表情が見えないながら、こちらにも解りやすく困って見せた。首を何度も傾げてみせたのだ。とてもわざとらしい動きである。
『ハァ? もう、本当になんなんだ? それが仲間にしたい人間に対する態度か!』
 重火器先輩の攻撃手段とは違い、双剣はまだ鬱憤があるらしい。俺の態度が良くないということもあり、魔法の届けてくれる声は、まだ怒っている。
 さすがに俺も、これ以上双剣の燃料切れを待てない。
「そういう態度ではないが……仲間になってくれるんだろう?」
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