『……どうしてそう思う?』
 双剣が嫌そうでありながら少し気まずそうな声を出す。俺に尋ねるまでもなく本人もわかっているのだろう。
 答えは簡単である。
「仲間にならないなら、まず猟奇と一戦交えるだろう? 気に食わない俺に加担してもいいくらいには、好きだろう? 必殺先輩のこと」
 双剣がこの答えを気にいることはないだろう。
 だが図星のようで、ようやく口を閉ざした。
 その一方、この答えが気に入った人物がいる。その人は俺の隣で重火器先輩の様子を見ていたのだが、俺が答えた瞬間にこちらを見て、にやにやとだらしない笑みを浮かべた。
 そう、持ち上げられるのが大好きな必殺先輩である。
「そうきたら一気に加点だろ。重火器は任せろ!」
 嬉しすぎて重火器先輩の相手までしてくれるらしい。なんといい先輩だ。
 俺は先輩をおだてる代わりに大きく頷くと結界をといた。
 先輩は口笛を吹きながら剣を片方だけ逆手に持ち直し、走り出す。
 その場に残った俺は結界を張り直し口を開く。
「それで、どうする?」
 双剣から返事はなかった。
 しかし双剣と一緒にいるはずの猟奇が笑いだす。
『やっべ、この顔みせてェー!』
 おそらく腹を抱えんばかりの大笑いである。
 きっと双剣の俺と猟奇のコンビに対する印象は、これで地に落ちた。後が怖いばかりだ。
 俺は心ひそかに双剣のお怒りを覚悟した。
『たぶん答えたくねェだろうから俺がお答えすると、大丈夫だ。怒りを耐えながら断ることができないと渋い顔してるぞ。あまりのことに小犬のように震えて……餌が大きかったなァ……』
 魔法を挟んですらにじみ出る猟奇の性格の悪さときたらない。きっと双剣も顔どころか全身で腹だたしさを表現していることだろう。攻撃までしているかもしれない。
 俺はその姿を想像し笑って油を注ぐ。
「いや、双剣ならげっ歯類では?」
 これで大変になるのは俺ではない。八つ当たりされるであろう猟奇だ。それを思うと笑いが止まりそうにない。
 後で苦労することはわかっているが、たまには猟奇も苦労すればいいのである。後の苦労を忘れて、いい気味だと高笑いまででそうだ。
 俺は重火器先輩と必殺先輩のドンパチの行方を見守りつつ、あふれんばかりの笑顔を浮かべていたことだろう。
『犬以外できたか……そうなるとなにか? お前の恋人はネコか。ニャンニャン鳴かせているってなァ』
 そんな色っぽいことなどまったくない上に、恋人ですらない。知っていながら飛ばしてくる冗談のきつさでも、俺の笑顔は止められなかった。
「なら、ワンコもニャンニャンだな」
 そうして俺の顔がニヤニヤしてしまうのも、お前ら最低だなと怒り任せに叫んでいる声が聞こえるせいかもしれない。
『あれは、ニャンニャンは鳴かねェからなァ』
 まったく知りたくなかった情報だ。さすがに笑顔が崩れる。
 それと同時くらいだろうか。必殺先輩が華麗な剣さばきで重火器先輩を倒した。
「……こっちの決着もついた」
『おーお疲れ。俺の方もマァ……一応終わったってことでいいか?』
 罵りを再開した双剣が納得してくれたのなら、猟奇の仕事は終わりだろう。
 俺は結界を消し、魔法石をポケットの中にいれた。
「そうだな。引き続き連絡係いいか?」

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