『ただで引き受けると思うかァ?』
 仲間になることと、ちょっとした頼み事は別料金らしい。なんて奴だ。これ以上何を出せというのだろう。
 俺は財布の中身を思い浮かべ悲しい声を上げる。
「最近、ちょっと取り立てが厳しすぎないか」
 俺がちょっと悲しいときは猟奇がちょっと楽しい時である。他人の不幸は甘くておいしいものなのだ。
 猟奇は歌いだしそうな声で答えてくれた。
『気のせいだァ!』
 何が気のせいなのか問い詰めたいところであるが、聞いたところでまともな答えは返ってこない。
 今度は口座の預金額を頭の中に呼び出して、俺は渋る。
「すぐに思いつかないんだが」
『なら、金』
 それがないから渋っているのだ。
 そろそろ猟奇も俺には金がないということを学んでもらわねばならない。
 俺は先輩方の元へゆっくりと向かいながら、真面目な顔をする。
「それも渡せる分は渡した」
『出世払いでもいいぞォ』
 もしも猟奇がこの場にいるのなら、俺は笑っていたに違いない。笑って誤魔化さねば、この金食い虫に金どころか将来の夢と希望も食われてしまう。
「お前は俺を破産させる気か……?」
『じゃあ、罰ゲームみたいなのやってくれ』
 じゃあとはなんだ。もう何でもいいから俺から何か持っていきたいのか。
 文句をいっても聞いてくれないのが猟奇だ。
 何故俺はこんな男の相棒をしているのだろう。魔法機械都市に来ないかと誘うほどの悪友だというのに、ときどき本気でわからない。
  「どんな?」
『考えてねェよォ。とにかく、それならただだぞ』
 ただということばは、時に人の思考力を奪う。
 それは俺であっても例外ではない。
 相棒がひくほど厄介なことをいいだすだろうことはわかっていても、それが俺にとって金を出した方が安いことであっても、うまく頭が働かなくなることがある。
 そう、ただより安いものはないはずなのに、だ。
「俺が五分以内で即決できそうなものなら」
『条件つけるのかよォ。けど、いいぜェ。それなら連絡係、続けてやりましょ』
 それでも俺はわかっているから条件をつけた。
 しかし、これは俺にとって不利な条件だ。俺はそれを後から知ることになる。
「お願いする。それで先生方のところへ行ってくれ。それが終わったらたぶん次の時間になる。その時は合流してくれ」
『了解。楽しみだなァ? 罰ゲーム』
 罰ゲームをする側はけして楽しくない。
 俺は同意することなく、魔法の通信を一方的に切った。
「何をするかわからないが、お手柔らかにしてもらいたい」
 そしてひとりごとをその場に落とす。そのあとすぐ俺は先輩方に合流する。
 そのとき先輩方は何か言い合いをしている最中だった。
「いや、だから! 簡単だろう? 渾身のギャグをいうだけでいいんだ!」
 合流した時点で無理難題を叫んでいたのは重火器先輩だ。
 重火器先輩は使い捨てるかのように豪快に、かつ巧みに重火器を使う先輩で、親父ギャグをこよなく愛する人である。
「そんなものなくても仲間になれよ、負けただろう?」
 鼻で笑っている必殺先輩の顔ときたら憎らしい。鼻くそでもほじりそうなくらい重火器先輩を馬鹿にしている。
「負けてない、負けてないぞ……! 勝ってもいないが! 俺はお前のスーパーギャグを前に、感心しただけだ……!」
 そのスーパーギャグとやらで我慢して、渾身のギャグとやらは諦めてくれないだろうか。
 俺が困った顔で二人を眺めていると、悔しがっている重火器先輩ではなく、先に必殺先輩が俺に気が付いた。
「よ。交渉うまくいったんだろ? 反則」
 爽やかに手まで上げてコミュニケーションをとってくる必殺先輩は、もう重火器先輩が面倒なのだろう。後輩である俺に、重火器先輩を押し付ける気満々だ。
「お、反則くん! そのヅラ、なんで今つけてんの? 来たときつけてなかったよな? もしかして、いいヅラ買ったの、いいづらかったの?」
 この世には気がついてはいけないことがある。けれど気付いて何かいいことをいわなければ、この先輩は仲間にはならない。
 俺はニコリと笑み、小さく首を振る。
「今、先輩のギャグに何かいいづらかったの……」
「ワ、オー」
 俺のコメントに先輩身体を震わせた。心からくる寒さからだというのなら、俺が震えたいところである。
 しかし、どうやら違うらしい。
 先輩はそのあとすぐに何度も頷き、『ほらな!』というように必殺先輩をみた。
 見られた必殺先輩は、やはり鼻くそをほじりたそうな顔をしたのだ。
next/ hl3-top