「それで俺たちはどうすりゃいいんだ?」
 必殺先輩の大変憎らしい子供のようなとぼけ方をなかったことにして、重火器先輩は俺に向き直る。必殺先輩と話をしても仕方ないと思ったのかもしれない。
 憎たらしい態度で半分無視を決め込む友人より、下心が見えるけれど相手はしてくれる後輩と話をした方がいいのだろう。
 どう考えてもどっちもどっちで、できることならもっと頼りがいのある友人と可愛げのある後輩がほしいものである。
 しかしここに居るのは、可愛げを下心でしか発揮しない後輩と都合のいい友人だ。
「そうですね。先輩たちには俺と猟奇と双剣と……暗殺者以外の二年の一掃をお願いします」
「わかったわかった、お前ら以外の二年な。楽勝楽勝……って、ちょっと規模が大きくないか?」
 とりあえず返事をするのが重火器先輩である。
 あまりに軽く返事をするので、ときどき押し切られてしまったり蔑ろにされてしまうのが玉に瑕だ。そして残念ながらここに居る後輩は蔑ろにはしないものの、押し切るタイプである。
「大丈夫ですよ、三年生方に比べたら。重火器先輩の火力であっという間です。俺、知ってますからね。先輩はまだ本気じゃないと。それと撃ち漏らしは必殺先輩が華麗に離脱させてくれますよ。必殺先輩は器用ですから」
 しかもその後輩は、もう一人の先輩をおだてることも忘れなかった。
 必殺先輩はあまり放っておくとふらっとどこかへ消えてしまうか、拗ねてしまうかのどちらかだ。鼻くそほじりたそうなつまらない顔をさせたままにしておくわけにはいかない。なかなか面倒くさい先輩だ。
「聞いたか、俺が華麗に活躍するんだと。花丸をあげよう、反則」
「またまたぁ、そうやって褒めても二年の撃破しかできないぞ」
 だが褒めておけば重火器先輩も必殺先輩も扱いやすい、いい先輩……単純な先輩である。
 二人してなんの問題もなく二年の一掃を引き受けてくれた。
 これで二人が志半ばで離脱しても、あとで文句などはいってこない。憎たらしい顔で『ごめんね』と手を合わせることはあっても、だ。
「お手伝いに双剣も向かわせますので、こき使ってください」
 ダメ押しに双剣も配置する。交渉材料として使ったが、双剣も多数の二年を前に簡単に負ける男ではない。使い捨てるにはもったいないといってもいい人材だ。
 だから俺が目的を果たしている間、他の生徒に邪魔をされないように配置する。
 仲間にしておくと俺の離脱の危機が減り、交渉材料にもなる。さらに味方として闘ってくれるのだ。お得な人材だともいえるだろう。
 そんな素晴らしい人材に対し、本人がいないからと俺もいいたい放題である。
 けれど双剣は文句をいいながら、憧れの先輩と闘ってくれるだろう。俺はそう思い込むことにした。
「ちょっと可愛げがある双剣か。わかった。俺たちはそれでいいが、他の三年はどうするつもりなんだ?」
 双剣の反応を見て重火器先輩に勝ちに行った必殺先輩は、どうやら双剣をいじって遊ぶつもりらしい。双剣の話が出た途端目に見えるほど上機嫌になった。
 素直で単純な重火器先輩も必殺先輩の上機嫌な様子につられて楽しそうに『俺のギャグにも付き合ってくれるのか』と呟く。
 それはおそらく、ツッコミ入れ放題という形での付き合いになるだろう。スーパーギャグや渾身のギャグはきっと生まれない。
「先生方が助けてくれるそうですし。猟奇が本気を出してくれるのなら俺も頑張ります。それとあと一人二人、味方にしますし暗殺者も来ますので」
「それ。反則くん、暗殺者が来るって確信してるのか? お、これはまさか核心か」
 重火器先輩のついでにつけたしたギャグは、本当に核心をついていた。
 俺が遅刻をしたのはワザとで、暗殺者が遅れてくるのは予定されていることだ。ただしく核心である。
「そうですね……サボることもできますけど、真面目な奴ですし。ここに来ると信じている。それだけですよ」
 俺は少しばかりリップサービスをし、遠くを見て笑って見せた。
 惚気に見えると嬉しい限りだ。
 それに対し先輩方は二人とも鼻くそをほじりたそうな顔をする。惚気がうっとうしいのか、俺の態度がしらじらしいのか。どちらかはっきりしてもらいたいものだ。
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