ほんのり不満な顔をして先輩方を見つめてみると、重火器先輩は頬を掻きえへへと笑った。
「暗殺者はまぁ……置いといて、あと一人二人っていうのは? 勢いとかのサービス?」
自分でひやかしておいて、まるで俺が自発的に惚気て被害を受けたような雰囲気で誤魔化すのは止めてもらいたい。俺は確かにわざと惚気たが、聞かれなければ答えないことである。
「言わないとダメですか?」
惚気と同じくこれも言ったところで何かあるわけではない。
強いて言うなら俺が先生方の依頼で動いているとか、これがその一環であるとか、今だけは協奏もグルであるということがばれるかもしれないというくらいだ。
先生方のことが協奏にばれてしまったら今後が面倒であるがそれだけである。その上、必殺先輩や重火器先輩にばれても大したことにはならない。
「言ってくれたら一割くらい派手に二年生倒せるかもしれないぞ」
ようやく憎らしい顔を止めた必殺が、親指を立て得意げに宣言した。
なるほど、二年全員を倒すというのは重火器先輩の言うところの勢いとかのサービスであったようだ。全員倒せなくても俺は気にしないことを先輩方もよく知っていたのである。
俺は先輩の言うことにニコニコと笑いながら何度も頷いた。
「さらに二割増して下さったら」
ハハッと必殺先輩も笑う。
三割くらい派手に二年を倒すことは可能なようで、大きく頷いてくれた。
「もうちょっと学友を大事にしろよ、反則くん」
必殺先輩の答えに重火器先輩がかわいそうなものを見る目をする。
その重火器先輩の忠告を聞かなかったことにして、俺は顔の前に指を一本立てた。
「一人目は焦点先輩です」
俺の軽いスルーは先輩方の気になるところではないらしい。必殺先輩は俺の答えに少し目を細め、重火器先輩が明るい手を叩く。
「ああ、仲良いもんな」
必殺先輩とは違い単純さとギャグだけで出来ている重火器先輩はそういって頷いた。
重火器先輩はかなりさっぱりした性格だ。けれどさっぱりしすぎて何事にも執着せず薄情な面もあるので、簡単に裏切ったりもする。
だから協奏も重火器先輩を多用するが重要なことを任せたりしない。
改めて単純であるが面倒くさい二人の先輩を見つめ、俺は二本目の指を立てる。
「二人目は破砕ですが……これはちょっと骨が折れるので味方にするのは賢くないかもしれません」
それというのも破砕が俺や猟奇を遊び相手だと認識しているからだ。
俺も猟奇も変わり種といっていいのに、正統派の戦い方をする破砕はいつも俺たちを見ては楽しそうに拳を握る。
それに破砕は協奏の企みにはいつも関わっているので、仲間になってくれないかもしれない。
破砕は俺の目の前にいる先輩方と違い、義理堅いのだ。
だから実のところ、俺は破砕をあてにしていない。
本当の二人目は猟奇の召喚ワンコだ。
一応猟奇の奥の手であるため口には出さない。けれどあのワンコは強いので、猟奇に体や将来を売る気になったのなら頼み込もうと思う。
しかし猟奇にとってワンコが奥の手であるように、俺にとってもそれは奥の手である。背に腹どころの話ではない。いったい何を切り売りしてしまったんだというレベルで使いたくない手である。猟奇という鬼畜がいったい何を条件にしてくるかわかったものではないからだ。
すでにいくつか猟奇の手に渡ってしまった気もするが、俺はまだ将来と心の平和をこの手に残しておきたい。
「ふうん……なるほど」
必殺先輩が目を細めたまま、考えるように顎に手を当てた。必殺先輩にはこういうところがあるから協奏に避けられるのである。
「思うところがありますか?」
俺は協奏と違った方針を持っているので、必殺先輩の厄介さは場合によっては使いやすいと思う。
ゆえにこうしてあえて尋ねた。
探られて痛いことではないし、痛いことなら余所に置き換えることが可能だからだ。
「……残りの三十点ばっかしにちょっと思いを馳せているだけだ」
その三十点は失ったのではなく、まだ俺が持っている分である。先輩もそれがわかっているようで、俺に気の利いた答えを促す様に首を傾げた。