きちんとルールに則って戦闘をしているというのに、何故人は俺を反則と言うのだろう。首を傾げて知らん顔をしてやりたいものだ。
俺は一つ石を取り出し、右へと半歩動く。俺が居た場所に炎が落ちる。
「展開」
取り出した石が俺の声に反応し青く輝いた。すると頭上に半円状の結界が展開する。
「……ねぇ、それ」
「悪いな、一人用だ」
俺の使っている石は、魔法石といい、魔法の力を内包する石だ。その石さえも力の内包量はまちまちであり、俺が使う石はそれほど力があるわけではない。大きな結界を張れるほどの力がないのである。
「えー、俺にも用意してくれたりとかは?」
「しないな」
いくら焔術師が力押しをしようとも、そろそろ一年生も混乱から抜け出す頃だ。もたもたしていると焔術師の攻撃だけではなく、一年生からも攻撃を受けてしまう。俺が結界を壊していたように、残り少ない一年生たちも俺の結界を壊そうとするかもしれない。なんにせよ、俺は早撃ちに構っている暇があれば、この場から退きたかった。
「そんなこと言っちゃうわけ? しっかたないなぁ。俺、職、権、乱、用しちゃうぞー?」
早撃ちが急に銃を構え、こちらに襲い掛かってきた一年生を撃ちぬき、ニヤリと笑う。先ほどまで何もせず、ようよう避けていたように見えたのが嘘のようだ。
そんな早撃ちの言葉とその笑みに、俺は嫌な予感がした。
アヤトリは、青磁だ。青磁は良平のワンコであり、その良平の邪魔するものを排除するためだけに風紀委員会という、この学園では特殊な権力を持つ集団に属している。しかも属しているだけではなく、青磁はその集団のトップに立っていた。いささかやりすぎたとは青磁の言である。
そのアヤトリの自称友達というのは、一体どういう繋がりなのか。
その自称友達が使える職権とは、なんなのか。
答えは決まっているような気がした。
「あっれぇ、まずいなって顔してるねぇ? 反則狙撃ってやっぱり頭回る系だよね」
くるくると踊るように炎の雨を避け、自棄になって攻撃をしかけてくる一年生を離脱させる姿が、先ほどより楽しそうに見えて仕方ない。この厄介な性質を持つ、アヤトリの知り合いなど一人しかいないように思った。その上、高等部の二年の銃選択となれば、俺は早撃ちの正体に気付かないわけにはいかない。
「止めをさそっか。俺は知ってるよ、反則狙撃ちゃん」
もう何を知っているかなど、聞きたくもなかった。
これもよく解らないということにしているのだが、俺は何故だか銃選択の人間の恨みを買うことが多い。その早撃ちが知っていることをそれらの人間にばらされたら、これからの学園生活がピンチなのではないか。
今日は厄日だ。そうに違いない。
俺は手に持った石を心持ち乱暴に早撃ちに投げつける。
「ありがとーう。後で返すね」
早撃ちは取り落とすことなく石をキャッチした。結界は俺ではなく、石に張ってある。俺は石のオマケで守られているようなものだった。
つまり、石さえ持っていれば結界に守られるのである。
「後?」
聞いてはいけないことを耳にして、俺は早撃ちの言葉を繰り返す。
「うん、そう」
後というのはいつのことだろうと思いつつ、俺も一年生同様、自棄になって石を持っていた手にも銃を握り攻撃を始めた。
石はたっぷりあったが、あまり使ってこちらの手を明かすのは避けたかったのだ。今は味方であるが、普段はそうではないのである。いざというときのために普段から控えめに魔法は使うようにしていた。
今がそのいざというときなのかもしれない。けれど俺は石を一つしか使わないことにした。
「返さなくてもいい」
嫌な予感しかしないのだ。もしも、俺が気がつきたくないことが色々事実ならば、早撃ちのいう『後で』は、変装していないときである。俺が気付きたくない……早撃ちの正体が、俺の思うとおりならば、そういうことを平気でやる人だ。
「遠慮せず」
俺から遠ざかっていく声が弾んで、実に楽しそうである。そのままさっさと安全圏に走っていってここから居なくなってくれると、俺の気分も少しは楽しくなれるのかもしれない。
俺は楽しい気分になどなれず、炎の雨を避けて蛇行した。
炎の雨は意外と単調な動きをする。本物の雨よりも重みがないため、風に吹かれれば揺れ、落下位置を変えてしまう。だから、焔術師は炎のために道を作ったようだ。少し斜めに炎だけが導火線を辿るように落ちてくる。
雨というほどだ、その落下はランダムで、複数の火矢を放たれるのにも似ていた。
「何故こういうときに猟奇はいないんだ」
こういった魔法の仕組みや、魔法の阻害、防御などは相方の猟奇が得意とするところである。
猟奇の運がいいのか、俺の運が悪いのか、あるいは両方だろうか。
炎の雨が掠めてはジャージを燃やすため、俺は炎を叩き落とすためにも動く。
一年生が俺の隙を狙い突っ込んでくる。俺はそれを引き金を引くことで牽制した。それだけで一年生は慌てて飛び退り、炎の雨に打たれる。
「単純なことで」
炎の雨は大雨ではない。避けることは不可能ではなかった。
しかし、小雨より間隔が大きかろうと、本物の雨ではなかろうと、空から炎が降ってくるというのは脅威である。俺はそのうち、安全圏までいけず離脱させられるのだろう。
「悪あがき、させてもらうか」