「とまぁ、そんなわけで。良平何でるん?たぶん、聞きに来よると思んねや、あの魔術師」
「ん?叶丞知らない?今年は文化祭が魔法使い主体になるんだぞ」
この学園の体育祭は、怪我人こそ出ないが、筋肉痛と疲労で倒れる者が多くなるくらい盛り上がる。
それに対し文化祭は地味なもので、所属者が少ないながらも存在している文化クラブの発表の場として、一週間ほど展示が行われる。
他の学校のように出店があるわけでなし、楽しい催し物があるわけでなし、こういってはなんだが、実に地味だ。
そんな文化祭に花を添えようというよりも、文化祭あんまりだろう。と苦言を呈したのは今期の生徒会。なんでも、体育祭なんぞは体育会系にまかせて、文化祭は普段お頭をフル回転させている魔術師が彩るべきなのではないか、とか。
「へぇ…初耳」
「あー…ちょうど、レースの準備期間くらいにちょろっとでた話だしなー…。ま、そんなこんなな理由で、魔術師が出てくる競技が少なくなってんだよ。だから、出ようと思ったら、全部出れるんだとさ。俺はそんなに出ねーけど」
あのお間抜けならやりかねん。と、馬鹿にしている良平は、魔法、武器、両方の競技に出るつもりらしい。
「で、出るのは騎馬戦と個人トーナメント」
「…コンビは?」
「それは、文化祭のほうにもあるらしいし」
ちなみに、騎馬戦は、なんと魔法使い達のための競技だ。
馬が武器系のやつら、というわけではなく、魔法で駒を作り、魔法で戦うというものだ。騎馬、とはいうものの、戦略シュミレーションに近い。
俺は魔法使いではないため参加資格をもたないから、色んな奴らの戦術を見る。という点で、非常に楽しませてもらってる競技である。
個人トーナメントは、一年から三年まで入り乱れてやる競技というか…武闘会のようなもので、今年はどうやら魔法使いは参加資格がなく武器専攻の連中のお祭りらしい。
「そか。良平、両方所属しとることになっとるもんなぁ…」
「で、おまえは何に出るつもりなんだ?」
「んー…コンビは良平に相談してからやと思てたんやけど。射的と、足の引っ張り合いと、生き残り戦」
射的は銃選択の人間は必ずでなければならない競技で、的に銃口を向けて速さと正確さを競う。俺はこの競技に関して乗り気ではない。優勝は、佐々良だと分かっているからだ。
「足の引っ張り合いは、一織に押し切られたか?」
「よくおわかりで…」
この足の引っ張り合いというのは、正しくは競技名ではない。生徒間でそう言われているのだ。
競技自体はスタートからゴールまで走るといういたってシンプルなものだ。
しかし、このシンプルさには、ルールがない。本当にシンプルなのだ。
そう、スタートからゴールまでの間、何の邪魔をしてもルール違反ではない。
そして、真面目に走るやつなんていない。
「ややわー…ひぃ、去年優勝しとったやん。一番最後にスタートして、全員コースアウトさせたやん」
「あれ、マジ怖かったろうなぁ。俺同じスタートじゃなくてよかったって思ったし」
「ていうか、ひぃのこといつの間に名前で呼ぶようになったん?」
「お、嫉妬?」
「いや、普通にきいとるだけ」
レース以降、二人はあのまま仲良くなったらしい。青磁がギリギリしてるかもしれないが、最近青磁もそれなりに忙しいらしく姿が見えない。それどころでないかもしれない。
「で、生き残りは、誰のせいででるとか言ってんだ?基本的に、体育祭出たいとか思ってないだろ、叶丞」
「あったりー。生き残りは追求が、え?でないの?って笑顔でゴリ押ししてきよって…」
「あー…賭けのレートがどうのとか言ってた…」
生き残りも足の引っ張り合い同様、生徒間で勝手に呼ばれている名前だ。
この生き残りというのは、ただの障害物競走だ。
それもシンプルで、スタートから障害物を乗り越えゴールするという以外のルールらしいルールがない。そう、これも邪魔し放題であるのだ。
その上、障害物をつくるのは競技を準備する人間ではない。競技に参加している人間なのだ。
前のレースに出た人間の罠も残したまま、次から次へと障害物を作り、罠を張り…その上邪魔までされる。
ひどい競技である。
「でも、叶丞がでたら、絶対面白い」
「いや、俺はもう、出たない…」
「つーか、トーナメントは?」
「ややー三つもでなあかん上に、一番疲れる競技とか」
「…それを許してくれるのか、周りの連中は」
良平は二つしか出る気がないくせに、なんで、そんな不吉な宣言ができるのだろう。
そのとおりだとは思うけれど。