俺のまわりの連中はやはり、俺が個人トーナメントに出ないということを許してくれないらしい。
食堂で久しぶりに良平と食事をしていたら、ファンたちに奇声を上げられながら生徒会連中がやってきた。
「てめぇ、個人トーナメントでねぇって?」
珍しく俺に声をかけてくる生徒会長。うわー久しぶりに声とか聞いた。相変わらず不機嫌そう。…俺と話すってだけで、そういう態度なんだから、上機嫌な声なんて俺を前にして出したことがない。
「え、どこ情報ですのん?」
「リョウヘイが教えてくれた」
久しぶりといえば、一織の爽やか副会長っぷりも実に久しぶりに見た。本当に気持ち悪い。
それにしても、俺の名前は一向に慣れる気配がしないうちにキョーと呼び出したのに、良平は、知らない間に呼び方が滑らかになっている。
一織の俺の扱いは意外とずさんというか、適当というか。
もう慣れっこなため、深くはつっこまない。
「うん、まぁ…裏切り者ー」
「いや、俺としてもなんで出ねーのって気持ちがこう…」
「納得できないから、出て欲しいんだが」
だなんて、本当に爽やかな会計が、にこりと笑った。
さすが、将牙の双子の兄。そんなところばかり似ているというか、二人してお前が出ないのは納得できないから出場しろ、と言ってくる。
実は食堂に来る前に、将牙に会って、食事に誘ったついでにそんな話になったのだ。
将牙は今日は美化委員長と食うからといって、食事は断ったものの、俺のトーナメント不参加発言には大変不満そうだった。
「会長権限で強制参加させればいいんじゃないか?」
だなんて、三年生である書記が言ってしまったものだから、トーナメントに参加することができない会長がにやりと笑った。
「や、でも、ほら…俺、三つも出ることに…なっとりますし…」
「競技の出場は無制限だ。だいたい、トーナメント予選で落ちねぇともかぎらねぇし」
トーナメントは参加者が非常に多い花形競技で人気競技だ。
体育会系な連中がこぞって参加したがるため、トーナメント予選を体育祭本番前にやってしまうのだ。
「そですやんねートーナメントで倒れてまうよな、しょっぼいやつが参加してもしゃあないですよねー」
「キョー」
へらへらっと笑ってごまかして、会長をさらに不機嫌にさせても、会計が微妙な顔をしても、慣れたものだし会計に至っては将牙を相手にしている気分になることがあるため、気に留めることもない。
しかし、どうしても、爽やかな笑みを浮かべる副会長だけはダメだ。
爽やかに笑ってようが、笑ってなかろうが、確実に俺を脅してくる。
「お前が出ないと、倒しがいがない」
出場する野郎どもに喧嘩を売るどころではない。もうすでに優勝宣言である。
会長が目をキラキラさせていて、ちょっと可愛いなーとか現実逃避をしたって、現実はグイグイと迫ってくる。
「十織、強制参加させてくれ。完膚なきまでに叩きのめすために」
一織にそんなことを言われなければ、会長だってそこまで本気で俺を出場させようなんて思ってなかったに違いない。
「おう、名前参加申込用紙に書いた状態でコピーしておく」
そこまで強制するんだ…。
申込用紙に最初から盛り込まれるだなんて、初めての経験だなぁ。…もう二度としたくない。
「酷いッ!俺、心も体もぼろぼろやー」
「往生しろよ」
いや、死なないし。
良平が肩に手を置いて首を横に振った。焚きつけたのは、良平じゃなかっただろうかと、思い至って、俺はたぶん、会計よりも微妙な顔をした。
「俺も武器でどこまでいけるか知りたいしな」
良平くんは大変優秀だと思うんですが。
俺は視線をそらして、はははと笑うしか無かった。
「ところで良平くん」
「なんだね、叶丞くん」
「のっときぃきぃやなかったんですか?」
周りからきぃきぃされるのが嫌だという理由で、夏休み前は俺と行動を共にする回数が激減したハズだ。
「一織と合同研究の件、すすめてたら会長ものってきたんで、こそこそ会うの面倒になってきて、しかたねーし、犬使って守らせておこうかなと思って」
ああ、それで、青磁あんまり見かけないんだー…大変だー…。
いや、ワンコは喜んでご奉仕しているでしょうが。
「ま、あいつに守られなくてもなんとかできる自信があるけど、あいつがやりたいっていうから」
「良平、それで、ワンコとのふれあいは減ってとるんちゃう?」
「耐えられなくなったら来んだろ」
青磁さんが不便でなりません。
「というわけで、いつも以上に遠慮はしねぇから」
周りに聞こえないように、そのくせ俺には聞こえるように囁くのやめてくれませんかね、一織さん。