Tiger Track


「叶丞、温泉はすきか?」
すきじゃない。
と答えていたら、きっと俺はここにはいないんだろうなぁ。とは、あとの祭りというやつだ。
俺はフレドとライカを構えて溜息をつく。
事は学園主催の企画『温泉合宿争奪戦!ナンバーワン決定!?射撃大会!』というチラシを良平が持ってきたことから始まった。
「お疲れの皆さんにプレゼントしてくれても、いいとおもわないかね?」
生徒会室の一角。
お前は風紀のほうに縁があるんだから、風紀副委員長に頼んでおけよ。といいたくもあったが、俺が相方である限り、そして、俺が生徒会室にいる限りここに来るのは仕方ない。
「いや、俺やなくて副委員長とかのが、射撃は早ようて正確やで」
「叶丞のおばかさーん。ここをみてごらん」
良平が気持ち悪い口調のまま指差したそこには、こうあった。
三位受賞者まで温泉にいけるよ!
「えーっと…」
「もう、風紀副委員長には頼んであるから、さ、二人でもぎ取ろうか!」
「……えー…やって、射撃とか…」
この学園の企画だ。商品はちゃんともらえるにしても、射撃がただの射撃なわけがない。
大方、邪魔し放題だよ☆皆でもぎ取ろう!温泉合宿!とかいうことになってるんだろ。
なんて口にはしないけど、皆わかっている。
「何いってんの?ほら、会長温泉いきたそうだし!」
え?そうなの?と振り返った会長のチラシに向ける輝く眼差しが、なんだかいたたまれなくてふっと目をそらした。その視線の先にいた一織はなんだかしょうがないみたいな目で弟を見ていた。
くっそ、会長の眼差しだけだったら、なんとかなったものを、兄弟で雰囲気を作るな!
「な。相方からもお願いしたい」
「ええ…」
それでもなお渋る俺に、良平は止めを刺すようにいったのだ。
「これ、1位5人、二位3人連れてけるんだよね」
まぁ、そうなると多方面から強制参加よろしくとなるわけだ。



「積年の恨み、今こそぉおお!」
フレドの引き金を二度ひいて、くるっと反転、横に飛ぶと、ライカの引き金を一回引く。
ごめん、口上聞く暇あったら引き金引いて動くわ。
消えていく厳ついお兄さんを見ることもなく、俺は走る。
「いやぁ…反則狙撃と一緒だと楽できるねぇー」
「楽をするな、楽を」
ついてくる早撃ちに一発銃弾を放つも、慌てず急がず、やつは至って落ち着いた様子でその弾を撃ち落とす。
「後出しなのに、撃ち落される俺の気持ちを考えたことってあるか?」
「そーゆーのは考えた方が負けっていうよね〜」
飛んでくる蹴りを二人して避けたあと、早撃ちが二、三発撃つ。
一発も無駄にせず、急所に当たった連中が離脱。
やけっぱちに展開!と叫ぶと学園に借りている猟銃が俺の片手に現れる。
「あれ?魔法、石ナシで使えたっけ?」
「少しだけなら」
一発撃ってから投げ捨てると勝手に送還される。
「なんだーまただしおしみぃ?」
「疲れるから自分の力はできるだけ使わないだけだ」



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