気を取り直して、直情型といえば焔術師も直情型の部類だ。ただ、将牙よりは頭がいいし、魔術師であるのだから、直接蹴りになんて来ない。最初に缶の守りを手薄にしようと思ったのだろう。
「いけ、双」
「オーケー」
双剣をけしかけながら魔術を使ってきた。
だが、俺はそんな予想できることより双剣が振り回しているものが気になる。
「……木刀?」
双剣は何故か木刀を持って俺に攻撃を仕掛けてきた。
『今回は温泉ということで、それらしくしてみましたー』
もし、俺が銃をもっていたら、コルクでも飛んでいく仕様だったということだろうか。いや、それは早撃ちに期待しておこう。
愛用の武器がわりに差し出された木刀に腹が立っているのだろう。双剣の動きがまるで鬼のようだ。
俺はしゃがんで攻撃を避けたあと、川原の石をいくつか拾い、投げる。コントロールの問題も有るが銃弾を弾くような連中に、今更石など問題ない。しかもその上、迫りくる炎に魔法石がない今、避けるしかない俺の狙いなど甘々だ。
コルクが出るのでもいいから銃が欲しい。
だが、俺の罠がたかだか川に掘られたリサイクル落とし穴だけだと思われたら心外だ。だいたい、トップクラス数人に協力態勢で襲われたら俺なんてあっという間だ。銃と魔法石があっても離脱を免れない。
俺は第二の罠を発動させようとした…ら、なんと、コルクが飛んできた。
「当てたら景品とかもらえるー?」
『ない』
「ざんねーん」
ハハハと笑いながら射撃の正確さは変わらない早撃ち。でもコルクはコルクというか。速度がいつもより遅いうえに、つめ直し早撃ちをしているようで、一人ではこちらに来れなかったようだ。
何か嫌そうに早打ちを手伝っている青磁がいた。
「撲滅」
いや、八つ当りすんなよ、ご主人さまと離されたからって。
青磁はあくまでコルクをつめる作業に撤している。糸が使えないわけではない。糸を使わないのだ。
何故なら。
「猟奇」
第二の罠が相方の猟奇こと良平だからだ。気配を消して隠れてもらってたわけだ。
ちなみに報酬は学食一ヵ月の奢り。俺の財布にエンジェルさんがご降臨なされようとしている。
第二の罠、良平により、俺のまわりに結界が生じる。
良平も焔術師や将牙と同じく手ぶらなのだが、良平は手ぶらでも困らない魔法使いだ。
「展開」
マジックサイスは良平の手に一気に現れ、双剣の木刀をスライス。
双剣が舌打ちをした。武器なしでどこまでいけるだろうなぁ。とりあえずマジックサイスの攻撃は焔術師の結界と避けることでなんとかしているようだ。お陰で焔術師の攻撃が緩んだ。これはチャンス。
「アヤトリ、糸」
そしてご主人様第一のワンワンが、ご主人様の声にいち早く反応。良平が出てきた時点で風紀の結束は風前の灯火。解っていた早撃ちは素早く青磁から離れていた。
炎が糸を焼いてしまう前にアヤトリの糸は焔術師を捕らえる。
焔術師に振り返り気をとられた双剣に迫るマジックサイス。
『はい、双焔のお二人さんアウトー。情報によりますと、猟奇は反則に買収された模様です』
『まさかの買収と裏切り』
だまらっしゃい。邪魔はアリアリなんだろう?
『さて、残りは近々と追求と人形使いと早撃ちですがー…ここで速報です。追求は利益がないので遠慮します。と早々に離脱宣言!人形使いはぬいぐるみを得ることに手間取っているようです』
『クレーンゲームのアームを緩めたのは去年の協奏なので、文句は協奏に』
人形使いがあまりにも可愛そうだ。どうやら操る人形はクレーンゲームで得なければならないらしい。
というか協奏は遺産を残し過ぎではないだろうか。去年はいったい何をしていたのか知らないが、俺は楽ができて嬉しい。
けれど、最大の難関が残っている。
気配を消して虎視眈々と缶を狙っているだろう一織だ。舞師もいるが、こういっては何だがあの人は意外と詰めが甘い。さすが将牙の双子の兄とか、失礼かもしれないが。うん、二人共に。
とにかく先程から気配を探っているんだが、一織の気配がない。始まった当初に消えたままだ。舞師もなかなか気配を隠している。隠しているが、俺のセンサーには引っ掛かっている。もし、一緒に行動しているのなら、楽に捕らえられるだろうが共同戦線ははっても一緒にはいないだろう。
俺の気配を読む能力の高さを二人ともが知っているからだ。
舞師走ってんなー…と思っていたら、気がつくと良平と交戦中。やっぱり速いなぁ近々。
舞師は弟とは違い浴衣を乱すことなく典雅に舞う。さすがに違うな。相手をする良平は浴衣の下にしっかりズボンをはいている。はだけた所で見苦しいものは見えない。完璧な配慮だ…。ちなみに糸を繰る青磁は元から大きなアクションをしない。たまに攻撃を避けるために裾が捲れたりするが問題はない。その青磁に攻撃をしながら缶へとジワジワ近づいている早撃ちは裾を捲り上げ動きやすくしているが、やはり見苦しいものが見えることはない。
もう離脱してしまった双剣に至っては浴衣自体性に合わなかったらしく元々スウェットだったし、焔術師はスースーするといって半パンの上から浴衣装着で、しかも襟元が死んでいた。後で指摘したら怒られるんだろうなぁ。
ついでに。
俺は左半分が濡れているが通常着用。見苦しいものは見せないように動いているつもりであるが、もしかしたらチラリズムくらいはしてるかもしれない。あんまり好ましくないビジュアルだ。
それに、濡れたままって…風邪をひきそうだ。
その左半分がゾクッとしたので、俺はとっさに第三の罠を発動させる。
足で、ある場所を踏むことによって簡易投石器が発動したのだが、それを軽々と避ける一織。気配…気配がなかった…。
舌を鋭く打つ音が聞こえた。見つかってしまったら避けられると思っているのだと思う。避けはするがいつだってこの人の攻撃を余裕で避けた覚えがない。しかも、フル装備で。 こういうときこそ相方の結界に頼りたいものだが、良平は木刀の癖に切りあうことを避けて舞う、舞師に苦戦していた。
クソ、これだから!なんであんた将牙の兄なんだ?似てるけど似てないッ!と叫びたいが黙る。近づいてくる一織に銃がない俺はたじたじでそれどころじゃなかったからだ。
「つか、缶を蹴れ!缶を!」
一織ほどの奴ならできただろう。
「缶は二の次だ」
クソッ!愛されすぎて辛いッ。…もちろん減らず口を叩いている暇はない。
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