缶を蹴る。わーって逃げる。簡単に言えばそういうゲームじゃなかったか、缶けりって。と俺は缶を眺めた。
『ルールは簡単!武器携帯、使用可。邪魔もアリアリ!ただし缶は蹴ることしか認めませんッ!というわけで缶けり大会を開催しまーす』
明るく響く協奏の声。
例の射撃大会のお陰で無理を押して定員以上のいつもの面子で行くことになった素敵な温泉合宿。さて、皆で温泉も入った。各々好きなように過ごしましょうぜとバラけてのんびりしていたところに、急に不穏な気配。これは、魔法が何か…と思っていたらこれだ。
『いやぁ…今回の射撃大会、反則が相変わらず反則でしたねー!その辺どう思いますか解説者の槍走さん』
『仕様だ』
先輩方は言いたい放題だ。というより、先程から変装後ネームで呼ばれてて、大変…大変いやな予感が。
『叶丞、結界が展開してる』
ドン、ピシャリ。
リンクで良平が教えてくれたが、どうやら結界が展開されているらしい。しかも、浴衣姿のままで変装後の姿になってるらしい。いらないサービスをしていただいた気分だが、普段からジャージのまま姿がかわっているのでそういうものなのかもしれない。
まったく、これだから学園の用意した企画の景品は!
俺、武器どころか魔法石すら持ってないんだけど。の状態で、とりあえず部屋に戻って…と思っていたら。
『さてー…そんなわけで缶けり大会なわけですが、命を懸けて缶を守る役目は反則くんにやってもらおうと思います!』
缶けり重たい。命懸けって重たい。
『射撃大会一位の景品だ』
いらん。
武器もとりに行かせてもらえないまま、命懸けで缶を守るという使命を…もとい強制命令をされた俺は、缶を目の前に罠をせっせと張ることしかできなかった。…さすがにそういう時間はくれた。武器をその間に取りに行きたいぐらいだったが、何度いこうとしても缶の置かれている川原に強制転送されたときの悲しみ…。無常だ。
『では、これよりスタートです』
先輩のどこから解説しているかは知らないが、どこからともなく聞こえてくる声と同時に突っ走ってくる将牙。
まず最初に正面突破にやってくるだろうとふんでいた将牙が、やはり隠れることなく走ってきた。
浴衣で走れるって相当だなと思ったら、浴衣がはだけるのも無視して走っていた。野郎のパンツがチラリズムどころか丸見え。ああ、見たくないもの見ちゃったなぁ…。
「避けてんじゃねぇ!」
無茶ぶる将牙はノー装備、ノー防具だったが、元々肉体を武器とする人間だ。そんな奴の攻撃があたれば痛いに決まっている。そりゃ避ける。
俺は避け続け、川の手前まで追い込まれたように見せ掛けた。
この川は浅い。俺が何か企んでいたとしても滑って足がとられるくらいだろうと思っている将牙は気にせずハイキックを繰り出す。
だが、その程度の罠で俺が満足すると思っていることが間違いだ。
この川は確かに浅い。浅いのだが何故か所々に穴がある。かなり深い穴が。おそらく前に来た人が魔法でえぐったんだろう深さの穴だ。
俺は将牙の攻撃をぎりぎりよけて、軽く背中を押す。
将牙は川へと落ちた。
「浅ぇことは…って、あっちぃ!て、ぎゃぶ………」
ブクブクと深い穴へと沈んでいく将牙。
温泉は天然温泉。
川の一部からも湧き出るお湯はかなり熱い。
その部分にお湯がたまるように石を組み、たぶん昔来た人が抉ったんだろう穴へ滑りやすくしておいた。罠を仕掛けながら俺も滑りかけて左半分濡れているとか、結構間抜けなことにもなっているが今は、将牙を哀れむ。
筋肉重いだろ?しかも急すぎて何が何やら解らないだろ?慌てて溺れるだろう?
敢えなく離脱だ。
穴からキラキラと離脱の光が見えた。
『ああ…去年、協奏が作った穴だな…破砕、離脱だ』
去年って…それが残るくらい抉ったってどういうことだ。
つうか、前きたのはあんたらか。