ヘイ!ユー!


青い海!
白い砂浜!
……見慣れた顔。
正直、花がない野郎ばっかりで虚しい…。
きっかけはなんであったか忘れたが、皆で海に遊びに行こうという話になった。
何の伝手があったのか、一と十の兄弟が常夏リゾートとして有名な観光島への片道切符をもってきた。
片道だけでも助かる!といって、みんなでワイワイとやってきた海。
青い海とは言うものの、浅瀬の続くサンゴ礁の海だ。青というより碧といった感じの、エメラルドグリーンとアクアブルーの中間色の海が前方に広がり、貝とサンゴ礁が砕けた砂は白く、リゾート地らしい少し整えられたビーチが少しばかり高級感をもたせている。
そんなわけでいつものメンバーで、日帰り旅行にでかけた。
俺は会長にちらっと視線をむける。水着にパーカーと理想的な海辺スタイルで、暑いのか、チャックは全開だった。白い。さすが魔法使い。白い。
海が似合わない…。
恋する男にあるまじき感想を抱いてしまった。
だって、海が似合わない。
普段から武器を振り回している連中以外は、皆白い。本当に白い。
なんとも海が似合わない。
「お、叶丞蛍光ピンクとセルリアンブルーとか、目立つの着てるな」
「そういう良平くんこそ、黒に蛍光黄緑とか、目ぇ死ぬわぁ…」
水着の話をしていたら、青磁が良平の格好にぼんやりしていた。
「良平さん…」
「…青磁、みっともない真似してるなよ」
鼻を抑えた青磁くんは正直ものだ。
適度に引き締まった体、少し軽薄にも見えるたれ目。灰色の髪。少し笑うと、きっと女の子が黙っていない。そして、青磁が黙らない。
身長も俺より高いとか、これで魔法使いなので神様って不平等だ。
「ところで、良平くん」
「なんだ、叶丞」
「あれは、何かな?」
「虫除け」
「なるほど…」
素直で正直な青磁だが、その素直で正直な青磁はモテる。眉毛はないし、目つきもわるいのに、モテる。
アシメだとか色気づきやがって…と髪型を変えた時には心底嫌そうな顔をした良平が思い出される。アシメにしたときの青磁はそれはもう男前に見えた。今もかわりなく男前だが、良平がいるだけでだいぶしょんぼりする仕様だ。
良平は虫除けといって、青磁に虫刺され作ってるしね。あーあ。これだから見せつけてくれちゃって。残念ながらここ、プライベートビーチだし。虫除けもくそもあるか。いつものメンツしかいない。
その近くではアロハで軽薄な男副委員長佐々良が将牙に浮き輪を一つプレゼントしていた。将牙は似てないとはいえ生徒会の舞師の双子の弟というだけあって、カッコイイ類だ。すこしやんちゃがすぎるといった容姿で、ツートンカラーの髪が目立つが、そんなことお構いなくカッコイイといっていい。その横の副委員長も軽薄ながら美形だ。いわゆるチャラ男と呼ばれる類の美形なのだが、その柔らかそうな明るカラーリングがされたゆるいウェーブの髪も、本人によく似合っている。
俺も銃選択なので、銃選択の三分の一を閉めるチャラ男といった類の様相をしているが、副委員長のは一味違う。なにか、国からして違う感じの軽薄さ。俺のはちょっとヤンキーくさい軽薄さ。…フツメンだし。
そこに誰もが羨ましがるであろう爽やかな笑顔を浮かべ、スポーツ青年と言わんばかりの爽やかさで…って、いい体してるなー無駄がない…ちょっと、ピアスとかが目立ってしまうが、やっぱりそれらが本人の容姿を損なうことなく、ちょっとドキッとする要素として備わっている。いつもはメガネをかけているが、眩しいのかサングラスをかけているため、なんかその男ぶりがすごく…いや、マジで腹がたつレベルだ。騙されてはいけない。あの男に爽やかさなど微塵もない。そんな一織までいる。
一織の親しい友人でもある舞師は変装前ランキングにいるとおりの美形な人で、あの爽やかに見せている男と並び立って目の保養とされている。こればっかりは将牙と同じ、オレンジに近い金にも見える茶色い目に、金の髪が陽光に眩しい。一織とは違った柔らかさと爽やかさが備わった容姿だ。優しそうで、素敵な人といえばこの人があがるだろう。
そうして大変悔しい美形具合を現場に作っている。
「なんや眩しわ…」
魔法使い連中も美形ばっかりだが、なまっちろいので、なんだか海が似合わないばっかりに、損をしているかんじがしなくもない。
なんだか、貧弱に見えてしまうのだ。
それは、武器系連中に比べたら、体も貧弱なのだが。
その中に混ざる双剣ときたら異質で、逆に場所を間違えた感が否めない。美形ではある。しかし、こうして会長と並ぶと、理系と体育系が並んだわかり易い図みたいになっている。
会長とて引き締まった体をしているのだが、いかんせん、魔術師と双剣使いとでは運動量が違う。
会長は青白い訳ではないのでまだマシなのだが、追求などは海が似合わないどころか、海に入るのを止めなければならないような青白さを保持している。
研究塔の奥から、日差しについて恨み言を述べる姿、まさに怨霊。
今日はそこから抜け出して肌まで晒している。
追求は俺と同じように普通で、中背を絵に描いたような平均身長。いや、俺は流石に、平均身長よりは高いけど。体つきはほっそりしているのは、研究大好きもやしっ子所以だ。黒い髪は少し長めで鬱陶しいのか、先程副委員長にヘアピンでとめてもらっていた。それが少し幼さを演出する。
そこから少し距離をとり、浮き輪を贈呈されている将牙を見て、笑っているのは人形使い。
将牙が笑われて照れくさそうにしているのを見て、少し気持ち悪いと思いながらも、じっくりと見る。笑っている人形使いは変装時と違いいやに美人だ。
変装時はミニマムで可愛らしい印象が強く残り、女の子のようですらあるのだが、今の彼は美人でありながらしっかり男で、女と疑うところがない。男の美人というものだ。 少し長めの髪をサラサラと揺らす姿は、やはりインドア派。海がまったく似合わない。
そして今日も会長の悪態に付き合っているどころか助長している双剣は、会長の隣にいても文句の言われない姿形の持ち主で、会長より少し高い背に、長い脚。髪は短め。まつげは長め。皮肉に歪む唇が爽やかさを否定する皮肉屋だ。羨ましいのは会長と並んで遜色無いということだろうか。
会長は会長で、兄とは違って爽やかさなど溝に捨ててきたような顔をしている。険しい。いつも、それはもう険しい顔をしているが、その男ぶりは学園では、王者と呼ばれている。けっこう可愛いところもある人なのに、なんだろうその持ち上げられぶり。とりあえず、会長は兄とそっくりな顔を、眉間に皺を寄せるという方法で区別がつくようにしてくれている。
最近わかったのだが、会長より、一織の方がキツイ顔をしている。会長の方がなんというか、柔らかい。
おいておく。
とにもかくにもそんなきらびやかな集団が、出来ている。何故か混じってしまった俺と追求の交わす視線の意味はこれだ。
「帰りたい」
「帰るなっつーの」
良平に首根っこつかまれて逃走できないとか切ない話だ。
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