十二畳ほどの何もない部屋に映し出された世界は綺麗で広い。
学園の一歩外に出れば広がる街中。
それをそっくり模倣し映し出された映像の中、難易度に合わせて街中の人間や敵が増えるシューティングゲームのようなシュミレーター。
シュミレーターに対応するために小さく薄い機械をつけた銃を構える。
出現する敵を遠距離から狙い、撃ち、終了の合図とともに、バイザーを外す。シュミレーターの操作機に表示された撃破数にため息をつく。
「また馬鹿にされるんかなぁ…」
最初から中距離の銃器に目も向けないで遠距離銃を使っていた。
銃が好きだった。
ご近所にあるガンショップの、所狭しと並べられた銃をバラして磨いていたショップ店員になついていたということもあって、小さい頃から銃に慣れ親しんでいた。
そこのショップ店員が銃が好きな俺をことのほか可愛がってくれたので、その店にあるシュミレーターで遊ばれせてくれたおかげで、今、学園に通っている。
学園の入口は広い。
武器を持ったこともない人間も、幼い頃から血のにじむような努力をしてきた人間も入学することができる。
中等部卒業までは難関らしい難関もない学校だが、高等部は違う。入口が存外狭く、出口はさらに狭い。
学園に入ったばかりの俺は、他の銃を持った人間より、成長が遅かった。
銃を選択したからには最初、中距離銃を必ず持たされる。
その中距離銃を使ってみた俺に、先生は遠距離銃を持たせながら、こういった。
「見えすぎている」
今は、中距離で銃をつかっても混乱するだけだ。
先生はそう言って遠距離銃を俺に使わせた。
俺としても遠距離の方がよかったから、万々歳だった。
しかし、遠距離というのはどうしても地味だ。
目立ってはいけないのだが、それでも地味なものは地味だ。
縁の下の力持ちなんて、まだまだなりたいなんて思えないような年齢の俺やクラスメイトは、シュミレーターの撃破数や撃破タイム、それらから出てくる得点の数値がすべてものをいう。
遠距離銃は乱発するものではないし、ひとつの銃にたくさんの銃弾が入るものでもない。
どうしても中距離銃とは差が出てしまう。
成績自体は悪くないにも関わらず、シュミレーターの数値を馬鹿にされることが多かった。
俺は操作機に映し出される数値を睨みつけ、考えた。
すぐさまパワーアップするのは無理な話だ。
地道に努力していたら今以上の力を得て、馬鹿にしたクラスメイトを鼻で笑うこともできたかもしれないが、今できるわけじゃない。
悔しいのは今だ。
いつかを思うより、今すぐどうにかしたいというのが、俺にはあった。
数値を睨んでも、数値は変わらない。
少しでも多い回数を重ねて数値を変えるしかないのだが、ふと、俺はあることを思い出した。
母が言っていたことだ。
学園のシステムは、シュミレーターも管理している大きいシステムなのだという。
母はとある研究機関の研究員だ。
機械に強い母は俺が小さい頃から、遊び道具として息子にコンピュータを与えた。
その結果、息子はコンピュータで構築するプログラムより、コンピュータをバラして組み立てる方に興味をもってしまったのだが、それでもそれなりにプログラムやシステムについてしっている。
コンピュータにはもれなく容量というやつがついてくる。
これを越える、もしくはいっぱいすると、作業が遅くなったり、コンピュータが止まったりする。
学園のシステムもおなじもので、学園の場合、容量が大きいため、学園で使われているシステムと呼ばれるもの、コンピュータや魔法で補っているものはすべて、このシステムにつながっている。
ならば、このシステムの容量をいっぱいにすれば作業は遅くなるのではないか。
作業が遅くなった場合、そのシステムにつながっているシュミレーターの動作も遅くなり、俺の欲しい数値が手に入りやすいかもしれない。
ずるい考え方であったが、その時はとてつもない名案のように思えた。
しかし、膨大な容量を持っている学園のシステムを潰すのは容易ではない。
それでも、人が多いこの学園のシステムに多大な負荷をかけている時間というやつは存在する。
その時間を見計らい、俺は出来るだけシステムに負担をかけるために学園の機器類の電源をいくつかつけて負荷のかかる作業をさせ、シュミレーションをはじめる。
シュミレーターがシステムに繋がっていても、システムは容量を分担しつかっているはずだ。シュミレーターの動作が遅くなってもほかが止まるということはない。
システムに負荷がかかると、一番危険のないものから動作が遅くなったり止まったりして容量を開けるはずであるし、重要度の低いシュミレーターはまず先に落とされるはずだ。
非常に姑息で計画的な子供だった。
しかし、所詮子供は子供。
青かった。
爪が甘かった。
「まっじでェえ??」
各種シュミレーターが満室の状態で、システムが一番働いている時間帯、俺は考えたことを実行した。
遠距離銃でいつもどおり敵を撃破したあと、少しずつ難易度を上げず、一気に難易度をあげる。
少しずつ上げる分には処理速度は一定を刻むのだが、一気にあげると、処理をする情報が急に増え、一時的に負荷が増える。
いつもやっている適度なレベルから何十倍かのレベルでやると、負荷は劇的に増える。
何十倍なんて普通はついていけないものだが、負荷さえかかっていればなんとかなるかもしれないなど、本当に子供考えることだった。