いつになっても待てない


俺が駄犬を拾ったのは、学園見学の時だった。
魔術都市に住んでいた俺が、はるばるその学園にやってきた時、駄犬は既に中等部生。
あの頃はただサボりがよく見られるごくごく普通の生徒だったと、本人は主張していた。
ごくごく普通の生徒が現在、槍のトップといわれる人間に、この頃から付きまとわれているというのは、非常に物言いたいものがあるのだが、本人がそういうのだから、そうなのだと思うことにしている。
一方その頃の俺といえば、駄犬が普通の生徒というのなら、ただのガリ勉だった。
秀才児だとか、同じ年頃の奴らより進んだ勉強をしていても、俺がガリ勉だったといってしまえばそれまでだ。
駄犬よりは納得がいくものだと思う。
そんな俺は、学園見学時、校舎を案内していた役員から離れてしまい、気がつけば一人だった。
そうして一人になり辿り着いた先に、居眠りしている毛並みのいい犬がいたのだ。
俺はその時困っていた。
だからって寝てる奴起こすほどじゃない。
でも、駄犬は駄犬でも犬は犬だ。人の気配に、駄犬は起きた。
まだその頃の駄犬には短いながら、眉毛があったし、成長途中で、どちらかというと美人という類の顔をしていたと思う。目は鋭かったが、一目で男と気がつけなかった。
俺はその頃、身長も前から数えるほうが早いようなやつだ。今はちょっと人に注目されるかもしれない顔面だが、昔はそうでもなく、地味でガリ勉のメガネでもあった。
見た目は宗であったのだが、すでに魔法使いとしての壁にブチ当たっていて、知識を身につければと必死になったが、それでもやはり壁が高く、グレた。
グレて、ガリ勉野郎はガリ勉不良になっていた。
それでも、諦められないのだから、俺も大概しつこい。
諦めきれず、グレながらも道を模索し続けた末の学園の校舎見学だった。
その校舎見学で出会った駄犬は本当に美人で、ちょっと怖い顔をしていても鑑賞に値する物件だ。その時の俺はマジマジと駄犬を見つめてしまっていたらしい。
駄犬は俺を見て、不機嫌そうに唸った。
今じゃ考えられない態度だが、その当時はしかたがないことだ。
駄犬は俺のペットではないどころか、犬ですらなかった。
しかし、俺と同じようにグレていた。その頃の青磁は俺と違って諦めていた。学園の退学もすでに決まっていたのだ。
「んだよ、てめぇ」
グレていた駄犬はじっと見てくる俺にメンチを切るのも簡単だった。
駄犬は本当に毛並みのいい犬で、睨んでこようが凄んでこようが駄犬の毛並みに夢中で、駄犬を触りたくなっていた俺にとって威嚇などたいしたことではない。
要するに、一目惚れだったのだと思う。
駄犬の容姿が俺の好みドンピシャだったのだ。
ここが、男子校であるということも忘れて、俺は駄犬に恋をした。
あとになって、やべ、あいつ男じゃんと思ったが時は既に遅い。その時には、駄犬を手に入れていたのだから、俺というやつはと思わないでもない。
とにかく、その時、俺は触りたかったのだから、普通に触ろうとした。
駄犬に手を振り払われた。
急に頭に手を伸ばされ、撫で回そうとしたら普通にそうなるだろう。
「何がしてんだよ」
誰彼かまわず噛み付く犬ではなかったので、その程度の反応だった。
俺は猛烈にそいつをなでまわしてベタベタに甘やかして、もう俺にひっつき回るくらいにしてしまいたい衝動にかられた。
そして、俺は学園のルールで武器を持っていない青磁を押し倒した。
武器はもっていなくとも、学園の退学が決まっていても、この学園で武芸を学んだものとして、それはショックだったと思う。
なにせ、ちびでメガネなガリ勉野郎に押し倒されたのだ。
油断していてもそれはないと思っただろう。
まさか十二歳のガキで、しかも魔術都市で魔法使いにならんと勉学に励んでいたガリ勉に押し倒されるとは誰も思わない。
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