牛塩タン、レモンがけとのディープな関係


昔から実家に帰るとどうしようもないことをされた。
私物を捨てられたり嫌味を言われたりわざとぶつかられたりするのだ。
暴力もふるわれたりもした。
昔から、あまり魔法以外に興味がなかった俺は、それらを心底煩わしく感じている。
実家を出てから、まさか、魔法機械都市で遭遇するとは思うわけもない。
「次男が当主になったって?さすがご当主様のご長男は違いなさる!相変わらず魔法も使えない無能のわりに弟には偉ぶって仕事を押し付けるのか。それとも、頭もお粗末なのか?」
余所の都市でわざわざ声をかけてくる元いじめっ子を見下ろし、首を傾げる。
「ちいせぇ」
こぼしてしまった言葉に、元いじめっ子は気づかなかったらしい。調子にのってペラペラとよく滑る口で、噛みもしないで喋り続けた。
「最近は脳筋どもと一緒にいるそうじゃないか」
最近友人付き合いをしている連中を脳筋にすると、若干サドっけのある脳筋、主人にしか興味のない脳筋、反則な脳筋になる。主人にしか興味のないあれは脳筋といわれてもさして興味がないだろうし、サドっけのある脳筋と反則な脳筋はどう考えても、脳も筋肉とは言い難い。
サドっけのある脳筋は、魔術都市出身であるし、反則は常に反則だ。
「やっぱり、能力のない奴には能力のないやつしか集まらないんだ」
それはそっくりそのまま返したい。
俺は、相手にするのも面倒で、口も開かず、今日の晩飯について考えていた。
連中のいう脳筋と飯を食う予定だ。
今日は肉の奪い合いを野外でしようと言っていたので、バーベキューか焼肉だろう。
「遅れてもうて、えらいすんません」
タレに思いを馳せていた時に、脳筋の一人がやってきた。
「まったくだ。肉につけるタレを3種以上考えてしまっただろうが」
「なっ……!」
俺が話を聞いていないと気がついた連中はさらに煩くなった。夏の虫より煩く喚く。
しかし、反則脳筋は一味違った。
「いやいや、3種以上ってなにがあんねや。レモン、塩、普通の」
気になるのはタレだけであるようで、連中の何かよくわからない嫌味のようなものは聞こえていないらしい。
「味噌、酢醤油、辛味噌……」
「辛味噌うまそやな」
「クソッ!ホムンクルスごときが!」
嫌味から、腑に落ちない罵り文句に変わっても、反則脳筋は連中を見もしなかった。
まっすぐ俺をみて話す様子は、視界どころかこの場に俺以外が居ないというような態度だ。
俺はキョーの視界の中にいるというだけで、優越感を抱けそうだった。
「それにしても良平も遅刻てどういうことやろか」
「良平は珍しいことじゃねぇ。基本的に遅れてくる。お前は珍しかったな」
「健康診断長びいてもてさ」
キョーは魔法機械都市にいる限り、何かと身体検査をしている。細かいことを説明するのは面倒なのか、どんな内容の検査でも毎回健康診断という。
それほど細かく診断していたら、風邪もひかないのではないかと思うのだが、俺が魔法機械都市にいる間に二度ひいた。一度は医院にまで運ばれ、入院までして、あの良平すら見舞いに行ったほどだ。
二度とも仕事で無理をした結果だったのだから、三度目が来る前に良平と十織とで部屋に閉じ込め、強制的に長期休みをとらせた。長期休暇中は飯さえも扉の小さな窓から入れるほどで、ワンルームのようになっていた部屋から出さなかったくらいだ。
俺はキョーの仕事を肩代わりして忙しくしていたこともあり、風邪の事情は一切きかなかったため、詳しくはよくわからない。
「悪いところでも見つかったか?」
「悪いところはなかったんやけど、なかったからこそ念入りに調べるちゅーてなぁ」
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